ユヴェントスvsレアルマドリード~ポジティブトランジションの設計図から考えるアッレグリのゲームプラン『何故ユヴェントスは走るのか?』~

立場が変われば見えるものは変わってくる。僕らは、ある種のフィルターを通して現実を覗いているのだ。
今年は、マドリー以外で一番見てきたのがユーベだった。そんな両チームがぶつかったのは偶然なのか?必然なのか?そういうのは置いといて。実験をしようと。ユヴェントス目線で試合を見たら、レアルマドリード目線とどう違うのか?その差違はどこにあるのか?を考えていこうと思う。

■ストゥラーロ抜擢の理由
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ユヴェントスのマークの設定である。SBにはセントラルの選手をぶつける。マドリーのサイド攻撃に対してマーカーをしっかり設定した。それは、マドリーにゲームコントロールされたくない。時間を使われたくないからだ。
ボールを奪う位置を決めたら、次はカウンターの設計である。カウンターの設計・ポジティブトランジションは、ゾーンDFのポジショニングが決める。
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ペレイラでなく、ストゥラーロが使われたのはこのためであった。カルバハルにプレッシャーをかけるため、いつもより長い距離を走ることが求められる。図を見ればわかるが、主にサイドでボールを奪うもしくは、インサイドのピルロの位置でボールを奪える。そこからの攻守の切り替えを考える。
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ストゥラーロをサイドに流すのには、ここでも利点があった。カルバハルをサイドで釘付けにすると、モラタがその裏に走り込む。ペペを引き付けると、ビダルがそのスペースに。モラタのスペースメイクの動きは、ビダルが担うこともあった。
どちらかと言えば、ストゥラーロを使って、中央よりサイドで活きるペレイラではなく、ビダルをトップ下に使いたかったのだろう。守備にも貢献できるビダル。トップ下に使われたビダルは、クロースやCBにプレッシングをかけることで、守備に走り回った。

■DF⇔MF・MF⇔FWラインを狙う
ゾーンDF→ポジティブトランジション→カウンターに対して、マドリーは全体のラインを下げることで対抗。
それに対して、サイドで数的優位を作ることでマドリーのゾーンDF攻略を目指す。
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FWがサイドで起点になり、SBの位置を下げる。そこから作り直す。4ー4ー2のゾーンDFの弱点は、FWの横のスペース。SBを攻撃の起点に作り直し、インサイドにボールを送る。
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FWとMFの間のスペースでボールを保持する。中央に三枚のMFを揃えることで数的優位を作るのが主な狙いだ。特にピルロを誰が見るかがかなり曖昧であった。ここのライン間のマークが曖昧になるのはゾーンの一つの弱点である。ピルロ経由で攻撃をスタートさせることで、ゾーンの機械的なプレッシングの噛み合わせを狂わせる。
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■強かな計算、アッレグリの仕掛けたもの
アッレグリレアルマドリードから奪い取ったのは時間。ゲームコントロールを許さなかった。
ベンゼマの欠場が決まっていて、アウェイの大事な一戦。アウェイゴールを考えると、守備に重点を置いてカウンターから得点を取りに来る。つまり、レアルマドリードが4ー4ー2で来ることを読んでいた。だからこそ、プレッシングでボールを奪いにいくことでスペースを与えた。結果、レアルマドリードの攻撃を縦に急がせることに成功する。
ユヴェントスのプレッシングは、マドリーの戦術を固定するためのものであったのだ。プレッシングにより、スペースをわざと与えた。アンチェロッティとしてはアウェイゴールを取りたいという誘惑がある。それにより、マドリーが動くのを制限した。それこそがアッレグリの仕掛けた罠だったのだ。
それに対して、アンチェロッティは後半途中にプランの変更を余儀なくされる。4ー3ー3に変更して、ボールポゼッションを高めて、ゲームをコントロールしようとする。この交代は、攻撃のためよりは守備のためということが大きい。ボールを保持することで相手の攻撃機会を削ろうということだ。
そこまで、読んでいたアッレグリ。直ぐ様、バルザーリを投入して、3ー5ー2に変更。リードされた状況下でマドリーが必要なのは、時間。ボールを積極的に奪いにいき、ボールを保持することで自分たちの攻撃の時間を増やしたいところだ。よって、マドリーがプレッシングを強めるであろうことは予測できる。だからこそ、3ー5ー2にしてボールを保持しやすくする。奪いに来たところをカウンターで牽制する。コンテがユヴェントスに3ー5ー2を導入したのは、ピルロを最大限に活かすためであった。フォーメーションのミスマッチを利用してボールをポゼッションする。無理なプレッシングは相手の攻撃を活かすことになる。
3ー5ー2で一番の問題は『WBを誰が見るか?』問題である。
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中央のビルドアップに対してのマーカーの人数はピッタリなのに対して、サイドのWBのポジションが浮いている。SBがマークに行けば、そのスペースを使われる。SBがポジションを守れば、ドリブルでボールを運ばれる。特に右サイドからボールを運ぶシーンが多かった。リヒトシュタイナーのドリブルでボールを運ばれる。このままでは不味い。マルセロ→プレッシング→テベスの裏抜けのシーンが目立った。テベスのフィジカルとドリブルで、マイボールにしていく。
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SBの裏のスペース。ペナルティの角のスペースを消すことでマドリーの攻撃を制限する。3ー5ー2の変更でもカウンターの狙いは変わらない。ゾーンDFのポジショニングがそのままカウンターに活きる。ユーベの攻撃の狙いは一貫していた。SBの裏、特にカルバハル、セルヒオ・ラモスのいる右サイド。カルバハルとセルヒオ・ラモスは何度も上下動することになった。結果、マドリーで走っている選手の二位と三位になった。
データはデータでしかない。そこに根拠を求めていったら間違ったものになってしまうし、サッカーを見る意味がなくなってしまう。では、データは何に使えるのか?それは裏付けである。データは嘘をつかない。それは確固たる証拠になるはずだ。
一方のユヴェントスはどうだったのか。ビダルマルキージオピルロの走行距離は11㎞を超えた。上記のようにかなりの運動量を求められるポジションだったからだ。それは、マドリーのネガティブな意味合いとは大きく違う。
ユヴェントスは、チームとしても走行距離という面でレアルマドリードを大きく上回った。だからと言って『マドリーが走っていないから負けた』とするのは少し横暴だ。僕たちが考えなくてはならないのは、『何故、ユヴェントスはそんなに走らなくてはならなかったのか?』である。そこには戦術的なアプローチがあった。プレッシングで試合をコントロールして、カウンターから得点を奪う。アッレグリの確かなゲームプランがあったのだ。

CLの挑戦・ポルトvsバイエルン~飛車、角落ち・ロベリー欠場の影響~

ジャイアントキリング。伏兵ポルトが、優勝候補に一泡吹かせることに成功した。注目点は、ポルトが攻守においてバイエルンを圧倒したことだ。バイエルンはボールを上手く繋ぐことが出来ず、ボールを上手く保持できなかった。グアルディオラのチームは、ボール保持からのボールの前進に優れたチームであることは、周知の事実である。今日は、何故バイエルンがボールを運べなかったかに焦点を当てていこうと思う。
守備組織を見るときに大事になってくるのが、何処でボールを奪うかの設定である。同時に何処かを必ず捨てなければならない。サッカーの広いフィールドを全てカバーするのは不可能だからだ。
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ポルトの出した結論は、バイエルンのインサイドMFにプレッシャーをかける+インサイドのスペースを管理することであった。チアゴ・アルカンタラとラームにボールを持たせない。彼等がボールを持ったとき、が激しいプレッシングをかける。同時に捨てなければならないスペースがある。それはアンカー、カゼミーロの周りのスペースである。しかし、バイエルンはそこのスペースを有効活用出来なかった。バイエルンロッベンリベリーが怪我で不在であった。どうやらそこと関係がありそうである。
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中央にボールを通すセオリーは、サイドに一度ボールを循環させることである。ポルトが中央を遮断しているので、それしか手段がない。シャビ・アロンソ、チアゴ、ラームを徹底的に潰すことで攻撃をサイドに誘導する。
ポルトは、自陣では4ー1ー4ー1で守備をセット。ジャクソンマルティネスは、シャビ・アロンソを見る。両WGのブラヒミとクアレスマは、両SBを見る。両SBは、ミュラーゲッツェがボールを持ったらプレッシング。
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今日は、ロッベンリベリーがいないのでカットインからボールを運べない。よってインサイドMFにボールを届けるしかない。SB→サイドMF→トップ下の循環。そこはカゼミーロが潰す。アンカースライドで対応。そうなるとインサイド→SBの裏抜けがある。グアルディオラの頭の中にもそのプランがあった。
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SBを高い位置に置ければ、ゲッツェミュラーのSBとCBへの裏のスペースをつく動きで打開出来る。所謂、ペナ角侵入である。サイドの横幅をSBが作る動きである。そのためには、ポルトを押し込む必要がある。SBのスペースに誰かをビルドアップのスタート地点に置く必要がある。オーソドックスなやり方だと、アンカー落としのCBが高い位置を取るやり方である。グアルディオラの頭の中には、このプランがあった。選手たちも、そう考えていた。しかし、それをさせないポルトであった。
ポルトのボトムチェンジ対策
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SBを高い位置に置ければ、ゲッツェミュラーに裏抜けとインサイドの起点作りに回せる。そのためには、ポルトを押し込みつつ、サイドに起点を作る必要がある。SBの代わりにビルドアップをする選手が必要になる。後方でボールを落ち着ける方法として3CBでのビルドアップがある。ボランチを落として、相手のプレッシングを外す手法だ。
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それをさせないポルトだ。3FWが相手のCBにプレッシャーをかける。SBには連動してこちらのSBをぶつける。全体のラインを上げることで、スペースを圧縮し、バイエルンの前線を潰す。
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唯一ボールを持てるのは、ノイアーであった。バックパスからノイアーのロングボールで打開を狙う。狙いは相手のDFラインを下げること。コンパクトな相手の中盤を間延びさせることだ。相手の頭上を越えるロングフィードでボールを運ぶ。しかし、そんなのは計算済み。ポルトのDFラインは南米のフィジカルモンスター達。レヴァントフスキーですら、太刀打ち出来ない。WGのカットインとインサイドMFの裏抜けが使えないことによる機能不全が主な原因であったのだ。こうして、攻守両面でバイエルンを圧倒したポルトであった。
バイエルンのウィークポイントをしっかり考えて対策を練ってきたポルト。対策の対策はグアルディオラの得意技である。完成が遅くなり、2ndLegの結果が出てしまった。前半でポルト攻略に成功したバイエルン。この試合から考えたグアルディオラポルト対策とはどういったものだったのだろうか?この試合がヒントになるかもしれない。

CLの挑戦・ドルトムントvsユヴェントス~アッレグリの仕掛けた罠とプランB~

前回は、ユヴェントスの二年間の成長を中心にドルトムント戦を見ていった。ではこの試合には戦術的駆け引きはなかったのだろうか?いや、そんなことはない。アッレグリ監督は、巧妙な罠を仕掛けた。ドルトムントの良さを消しつつ、こちら側の長所が活きるように。

ユヴェントスの狙いは1stLegから一貫している。カウンターでSBの裏を狙うことだ。そのためには、ドルトムントのSBが高い位置を取る必要がある。ユーベは中央を塞ぐことでドルトムントの攻撃をサイドに誘導したのであった。
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1stLegのリードとここがドルトムントのホームスタジアムであることから、ドルトムントが攻撃的に来るのは自明の理。ボールを保持して得点を奪いに来るだろう。中央のスペースを埋めることでサイドからのビルドアップになる。
ドルトムントのSBの役割は基本的には横幅を作ることにある。サイドMFは中央にポジショニングすることが多い。サイドにそのままいたら数的優位を活かせないからだ。中央にポジショニングする選手の狙いはSBとCBの間のスペース。そこにランニングしてフリーでボールを持つ。もしくは、中央からのパスを受ける。しつこいようだが、中央は閉ざされている。よって、サイドからの展開になる。ユヴェントスのDFラインは、自陣のペナルティエリアの幅で待ち構える。そうすることでSBとCBのギャップをなくす。ドルトムントのSBを自陣奥深くまで、誘いこんで、そこでボールを奪ってカウンターがアッレグリの狙いであった。
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ドルトムントの攻撃の心臓は、ギュンドアンである。彼がサイドと中央にパスを配る。そこを徹底的に消した。
バイタルエリアにボールを送る手段として、SBを使ったビルドアップがある。DFラインとボランチで素早くボールを回して、SBをフリーにする。
サイドMFとバイタルエリアに位置する選手のポジショニングを使ったものである。ユヴェントスは自陣のペナルティエリアの幅で守ることにより、このMFとDFの間のスペースを規制することに成功する。
中央封鎖の意味合いは、サイドチェンジのスピードを落とすことにある。素早いサイドチェンジによって、ボールを前進させることができる。ゾーンはスライドが原則なので、相手は撤退するしかない。中央を使われるとサイドチェンジのスピードが上がる。それはパスルートの距離が縮むからだ。
まとめると、中央を封鎖することで攻撃の速度、サイドチェンジのスピードに制限をかける。SBにボールを持たせ、自陣まで引き込む。
そんな中、ポグパが負傷交代。代わりはバルザーリ。3ー5ー2にシステムを変更。しかし、これはあまりいい手ではなかった。アッレグリとしては、リードしてるしCBとSBのスペースを埋めるつもりだったのだろう。
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ペレイラがいなくなり、ギュンドアンを誰が見るか曖昧に。攻撃の起点が復活したドルトムント。その結果、サイドチェンジを何度もされる。中央からの楔が活きるようになってくる。
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後半に入り、アッレグリの修正。テベスとモラタの位置を下げる。DFで大切なのは、何処を捨てるか?彼が捨てたのは、相手のCB。その代わり、ギュンドアンのプレーエリアを潰す。
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システムは3ー7ー0。もしくは、5ー5ー0とでも言うべきか。昨年のアトレティコレアルマドリードが出した解決策。FWとMFの間のスペースを埋める。CBとSBがフリーなのでそこを起点にしたい。
5バックの利点はSBとCBの間のスペースを消してしまうこと。4ー6ー0はサイドからの攻略とCBとSBの間のスペースを狙い打ちすることで攻略できるのは、レアルマドリードが証明済み。その弱点を埋めてしまった。ただし、全体的に布陣が低すぎるので、カウンターの威力は半減している。

ドルトムントは徐々にプレスの強度を高めていく。アドリアン・ラモスグロスクロイツの投入。死なばもろともプレス。ユーベのボール保持はシステムのミスマッチがメカニズムになっている。ミスマッチをハードワークで埋めようとするドルトムントユヴェントスは、システム変更後はボールを繋ぐ意識を少し高めていた。ボールを保持することでドルトムント攻撃機会を少しでも減らそうとする。ドルトムントとしては、それは一番避けたいところで。
ドルトムントの無理なプレッシングに合わせて、マルキージオのスルーパスが炸裂。高いDFラインの裏を取ったテベスからモラタへ。完全に試合を決めるとまたもテベスが裏を取り、完全に息の根を止めるのであった。
ドルトムントとしては、ポグパ離脱後から後半までの勢いがある時に一点を返せなかったのがキツかった。同点のまま、ハーフタイムに修正を加えられたので、打つ手が狭まった。
MOMは、テベスで異論はないだろう。守備でのハードワークからフィニッシュまで。1人で試合を決めてしまった。

1stLegでは、ドルトムントからボールを奪ってカウンターという意識が強かったが2ndLegではドルトムントをより自陣に引き込む。ブロックの空いたスペースに誘い込むようなDFであった。それはほんの僅かな違いだ。それは1stLegのリードあってのものだ。自分たちの良さを発揮するより、相手の良さを消すことを優先した。前回より、相手をリスペクトした。そう、ほんの少し。そう考えると前回のリードが如何に大きいものであったかがわかる。先制点が早い段階で決まったことは、この状況に拍車をかける。テベスゴラッソから、ドルトムントに何もさせず、可能性の芽を潰し続けた完勝。この相手への対応、柔軟性こそ、コンテ時代にはなかったものだった。

CLの挑戦・バイエルンミュンヘンvsシャフタールドネツク~グアルディオラから学ぶゾーンの崩し方~

歴史は繰り返されるのだろうか?ドイツのチームにブラジルのチームが大差で打ちのめされる。スコアの7という数字でブラジルW杯を思い出さなかった人はいないだろう。シャフタールウクライナのチームにも関わらず、その多くをブラジル人が担っている。これらは、偶然なのか?必然なのか?
試合自体は、開始3分でシャフタールが一人退場になりPKでビハインドを負うという大味な展開に。審判が少し過剰に演出してしまった感は否めない。シャフタール側は文句を言いたくなるだろう。僕はその判定についてとやかく言うわけではない。もし、退場者が出なかったらというたらればを言ってもしょうがない。現に退場者は出てしまっているのだ。シャフタールに残された選択肢は少なかったのだ。そこで試合の展開もバイエルンがひたすら攻撃に出る展開になり、シャフタールはただ無慈悲にやられることになるのは必然ですらあった。そこには戦術的なものは存在しない。そこについて語ってもどうしょうもないのだ。だったら何を拾うか?僕が非常に興味深いと思ったのは、ロッベンリベリーの位置である。通常と違うどころかスタートはインサイドMFとしてプレーしていたのだ。そこには何の狙いがあったのか?グアルディオラの実験から、DFの崩し方を考えようと思う。
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中央を固める相手をどう崩すべきか?それは、現代サッカーにおける至上命題になりつつある。ゾーンディフェンス、中央圧縮型に如何にして対応するか?キーワードはサイドへのボールの循環である。
シャフタールは4ー4気味にブロックを固めてきた。
スタートはこのような布陣になっていた。ゲッツェとレヴアントフスキーの位置ら逆のパターンでスタートしていた。ゲッツェの0トップみたいな形。それでもゲッツェを左に置いて書いたのは、その方が議論が進めやすいからだ。現にゲッツェは主にサイドに流れてチャンスを作っていたのだ。
バイエルンの通常の選手配置は下の図のようになるだろう。
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中央圧縮型の4ー4ブロックはとにかく中央のスペースを埋めてしまうことに利点がある。バイエルンのパスルートは2つ、中央からとサイドから。しかし、どちらもスペースがない。ロッベンのカットインに対して、中央に人を多く配置する。ゾーンの隙間でボールを持とうとしてもCBとSBに潰される。
ならば、裏へのスペースに走り込ませることで無理矢理にスペースを作る。
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これでブロックを崩せるわけだ。問題は、ロッベンリベリーのドリブルの破壊力を活かせない点にある。
だったら配置を逆にすればいい。大事なのはポジショニングとスペースへのランの役割をしっかりと守ることだ。
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バイエルンの狙いは明らかであった。SBのうらのスペースである。ゲッツェミュラーがインサイドでボールを持てるようにこのSBの裏のスペースを確保するのが最重要項目になる。ビルドアップのスタートはSBが担っていた。シャフタールの対面のSBはゲッツェミュラーを見なければならない。
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裏に飛び出したロッベンリベリーはそこからサイドを切り崩すことができるプレイヤーだ。誰かがつかなければならない。CBが空いたらレヴアントフスキーが。DMがついてきたらアラバがバイタルエリアでボールを受ける。
ゲッツェミュラーが中央に移動した際は、サイドの横幅はSBの選手が作る。
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ミュラーが空けたスペースにはラフィーニャが、ゲッツェがいたスペースにはアラバが移動する。SBのいたスペースにはロッベンリベリーが落ちてくる。彼らが攻撃のスタート地点になる。昨年のレアルマドリードでのモドリッチとディマリアと同じ動き。ここにドリブルで相手を突破できる、ボールを運べる選手を置く。メリットは相手のプレッシングを単独でかわせること。相手を引き付けて、中央からの打開。
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ゲッツェがCBを引き付けると中央にスペースが空く。そこに走り込むのはリベリーバイタルエリアからのカットインで相手を崩すのであった。
ファーストレグを見ていないので、何故グアルディオラがこの布陣にしてきたのかはわからない。だがシャフタールへの苦戦から選手配置を変えてきたのは間違いないだろう。このポジショニングが続くかどうかでグアルディオラの狙いがわかるだろう。
と思ってたら、ロッベンリベリーも負傷交代してしまったのでグアルディオラの真意は謎のままになるのであった。

ポジショニングとスペースメイキングにはある程度のパターンがやっぱりあった。バイエルンを見ると、その選手のポジショニングと動かし型がはっきりと出ている。ゾーンの隙間にポジショニング、マークを外す→相手のSBの裏という形はどの選手がいても変わらなかった。連動したオフザボールの動きはかなり勉強になったし、面白かった。

セリエの冒険・ローマvsユヴェントス~意地と貫禄・SBの裏のスペースを巡る攻防~

2試合続けてのユヴェントスピルロとポグパが負傷でいない。その影響からか?それともローマ対策なのか?今日は3ー5ー2で戦う。前回の対戦で触れたように、3ー5ー2システムとローマの4ー3ー3はマークがしっかり噛み合ってしまうのであった。前回はプレッシングでローマを苦しめたユーベだったが、今回は違う。カウンター狙いであった。プレッシングはスペースを与えてしまう。そうなれば、ジェルビーニョのスピードか活きる。だったらそのスピードを殺してしまおう。ということでローマのボール保持に対するユーベのゾーンDFである。
ローマの攻撃の大きな特徴がポジションチェンジによるスペースの創出にある。スピードスターであるジェルビーニョを活かすためのものだ。ビルドアップで相手のSBを引き付けて、マークのズレを引き起こす。狙いはCBとSBの裏のスペースである。
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ユヴェントスが通常の4ー4ー2で守るならこのような形になるだろう。基本的にはSBをより高い位置に置く。狙いは相手のSBを引き出すことにある。SBとCBの間のスペースにFWを走り込ませる。もし、SBがつられなくても裏に飛び出してドリブル突破をする。
しかし、ユーベは守備時は5バックで守るそのため、そこのスペースがない。前回はリヒトシュタイナーのミスから失点したが、今日はそんな油断はなかった。
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3トップを中に絞らせて、バイタルエリアからの飛び出しで崩す。SBは攻撃時は横幅を作り、WGを中央に使う。狙いはSBとCBの間のスペースである。そこをしっかり埋められたローマは、効果的な攻撃が出来ない。SBはサイドで孤立してしまい、そこからのアーリークロスしか攻め手がない。

ユヴェントスのもう1つの狙いは、ローマのSBの裏のスペースである。カウンターからそこに人を走らせる。
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モラタ、ペレイラテベスを裏に走らせ、ボールを運ぶ。ローマの陣形が整っているときは、リヒトシュタイナーを走らせる。サイドチェンジからカセレスリヒトシュタイナーという形がハマっていた。リヒトシュタイナーでホレバスを引き付けて、ペレイラ。徹底的にローマのサイドを崩す。
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先制点はカウンターから。裏に飛び出したビダルへのアプローチが遅れ、フリーキック。退場者を出してしまう。
テベスの見事なフリーキックが決まる。万事休すなローマ。しかし、ローマは諦めない。イトゥルベ、ナインゴランという前線で仕掛けられる選手の登場である。SBはまさかのフロレンツィーである。一方のユヴェントスはこのままでOKという気配が漂い始める。10人のローマ相手に止めを差しにいかなかった。ローマが無理してきたら、カウンターでもう一点。この考え方自体は普通だ。
そんな中仕掛けまくるイトゥルベ。その仕掛けからのフリーキック。キッカーはフロレンツィー。ケイタに合わさり、マルキージオオウンゴールを誘発。まさかの同点にユヴェントスはまた1からの出発を強いられる。しかし、一度失ったリズムは戻ることはなかった。最後まで攻め続けるローマ。得点は動かず、ドローで試合を終わらせる。
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なんとかフリーキックで追い付いた。最後の最後に得点の香りがしたのはローマの方であった。王者ユヴェントスを追い込んだのは意地の強さだったのかもしれない。一方でユーベは疲れが見えた。1人少ないローマに対して、ボール保持からのポゼッションで試合を終わらせることを選ばなかった。選べなかったのか。ドルトムント戦を見据えたのか。このままでいい。もしくはカウンターでもう一点という気持ちがあったのか。どことなく、余裕を感じさせたドローであったように思える。ローマにとってはそこが唯一の隙だったのだが。
怒るのはアッレグリ。ほぼプラン通りだったにも関わらず止めを刺しきれなかった。逆に誇るのはルディガルシア。チームのメンタリティを褒め称える。そんな両監督のコメントの違いは両チームの力量を表しているかのようだった。

CLの挑戦・ユヴェントスvsドルトムント~二年前の宿題~

二年前、ハインケンスの最高傑作であるバイエルンミュンヘンに叩き潰された。ただ、負けたわけではない。自分たちらしさを全く発揮できなかったのだ。その原因はバイエルンのプレッシングにあった。そして、今回は同じようなチーム、ドルトムントとの対戦になる。求められるのは過去の自分を超えられるかどうか?なのだ。
自分たちらしさとは何か?自分たちの長所を発揮することだ。ユベントスの長所は、ボールを保持しての攻撃である。そのため、相手がボールを持っていたらハイプレスですぐにボールを奪うことで自分たちらしさを継続させる。
かつての対戦では、そもそもバイエルンにボールを持たせて貰えなかった。ハイプレスの前に屈した。
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ドルトムントの高い位置からのハイプレッシャーにどのように向き合うか。高い位置からのハイプレスは後方にスペースを与えるリスキーなものである。ユーベの狙いはそのスペースを使うことであった。ドルトムントのハイプレッシャーは人への意識が高いものであった。そのために、ポジションチェンジをすることでスペースを得ることが出来た。仕掛けはビダルのポジショニング。落ちてくる動きとサイドに流れる動き。
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二年前にはいなかったテベス、モラタという個人の力でボールを運べる選手を使う。テベスポストプレー、モラタのサイドに流れる動き。モラタの運ぶドリブルでボールを運べるのは大きかった。
ユベントスの狙いはSBの裏のスペースにあった。エヴラとリヒトシュタイナーで相手のSBを引き寄せて、その裏のスペースへ。オーバメヤンとロイスはキエッリーニボヌッチを見ていたので、この選手のケアーはシュメルツアーとピスチェクが見なければいけない。そのため、エヴラとリヒトシュタイナーの位置はいつもより低い位置にポジショニングすることが多かった。裏に走るのは、右サイドはビダル、左サイドはポグパが担う。
逆にドルトムントがボールを保持した際はどのようにDFを組むか。アッレグリは4ー3ー3のゾーンでDFをセット。狙いはCBの底に落ちてくるギュンドアンを捕まえることにあった。いわゆる、3CBポゼッションの目的は数的優位の形成からフリーな選手を作ることにある。ボールホルダーをフリーにすることでブロックDFを攻略しようというわけだ。
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ユベントスのDFのブロックにより、数的優位が作れなくなった。ドルトムントはボールを運ぶのに苦労する。ロングボールの競り合いに強いレヴァントフスキーはもういない。ということでヴァイデンフェラーのフィードはほとんどユベントスに拾われることとなった。

ドルトムントのゲーゲンプレスの肝はボール運びにある。ボールを相手陣地に運んで攻撃。相手ボールになったら奪い返し、ショートカウンターという循環。その循環が狂い始める。ユベントスの攻撃はカウンターが中心。ドルトムントのプレッシャーに合わせてカウンターのスイッチを引く。攻撃のトリガーはトップ下のビダルテベス

試合は呆気ない展開で動く。ユベントスのカウンターからモラタのクロス。ヴァイデンフェラーが弾いたところをテベスが決めて先制。ドルトムントの反撃は、キエッリーニのミスから。ロングボールのクリアボールを繋いでいる時に、滑ってしまう。CB同士の距離が近すぎることで起きたミスをロイスがしっかり決めて、同点に。このあと、両者は怪我人が出るアクシデントが。ピスチェク→ギンター。ピルロペレイラ。二点目は前半のうちに決まる。バイタルエリアテベスがボールを持つと、ギンターが追いきれない。ギンターのいたスペースにポグパ。クロスからモラタがしっかり決めて決勝点。

二年前の宿題をしっかりクリアしたユベントス。ハイプレッシャーとボール保持への解答を出した。しかし、点差は僅かに一点。これをどう考えるか?ドルトムントとしてはアウェイゴールを持ち帰ったので満足だろう。次の試合もなかなか面白い展開になりそうである。

ライバルの動向・バレンシアvsセビージャ~ポジションチェンジの機能美とシステムの噛み合わせ~

バレンシアの選手の動かし方が面白かったのでメモ書き。継続して見てもいいかもしれない。フォーメーションの機能美。それは、ユヴェントスレアルマドリードと同じような選手の動かし方をする。僕の本家のブログを読んでいる方はわかってくれていると思うが、僕はマドリディスタである。マドリーが如何にして勝てるようになるかが重要なテーマなのだ。この試合はそのテーマにおける格好の研究材料になった。
試合は5位のバレンシアと4位のセビージャ。CL圏内争いでの重要な闘い。リーガは勝ち点で並んだら当該対決の成績で順位が変動する。リーガ3強がコケる可能性が少ないことを考えると非常に重要な一戦になる。
試合自体はテンションの高いものとなった。お互いがハイテンションでぶつかるフィジカルコンタクトの多い試合になった。そのため、ファールで試合の流れが止まることの多い試合となった。試合の流れを落ち着かせないのが狙いだったようだ。トランジションのスピード対決。この部分では両チームは互角であった。
前半にPKが4つもある荒れ試合に。試合の流れを決定づけたのは、ジエゴ・アウヴェス。PKストップで前半をリードすることに成功したバレンシア

後半に入り、試合のリズムが少し落ち着いてくる。そうなってくると、ボールを持つことができるバレンシア。システムチェンジにより、ボールを保持する。ボールを保持する前はセビージャの4ー4ー2気味の形としっかり噛み合っていたフォーメーション。それをズラす。

守備時にバレンシアは4ー4ー2にセット。攻撃時には3ー5ー2で攻撃を構築していた。
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まずは、ハビ・フエゴがディフェンスラインに落ちるお馴染みの形。相手の2トップに対して、3CBでビルドアップする。攻撃の起点は両翼のパレホとアンドレ・ゴメス。彼らが自由にボールを持つとき、バレンシアはらしさを発揮する。そのために、後方を自由にする。DFラインにプレッシャーがかかっていれば、連動したプレッシングを彼等にかけられるからだ。
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自由を得たパレホとアンドレ・ゴメスがボールをもったら攻撃がスタートする。この攻撃の仕組みは、コンテのユヴェントスと同じような仕組みをしている。WBを誰が見るんだ?問題である。ロドリゴとネグレトはサイドにバイタルに幅広く動く。そのため、SBを釣り出したら、サイドに流れるし、中央が空いていればバイタルでボールを持つ。
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仕上げは、連動してスペースに抜け出す。FWとインサイドMFとWBが連動してポジションチェンジを行う。この動きは4ー3ー3のレアルマドリードのものと同じような仕組みになっている。
バレンシアの三点目はサイドに流れたロドリゴからバイタルエリアに侵入したハビ・フエゴから生まれている。
キープレイヤーは中央でのポジションを移動しているハビ・フエゴとエンソ・ペレス。ボールポゼッションの逃げ場、サイドチェンジ要因としてパスを振り分ける。彼等がいるから、パレホとアンドレ・ゴメスは捕まりにくい。守備時にはファーストディフェンスとして、中央のスペースを守ることで効いていた。攻守の要。
後は前線の枚数問題か。時々、前線に人がいなくなる。元々、中央に人がいない設計になっているので、ボールを前進させてもゴール前に枚数が足りない現象が起こる。レアルマドリードはエンソ・ペレスのポジションの人を減らして、CFを固定した。それが昨年の4ー3ー3の仕組み。ハビ・フエゴの役割はシャビ・アロンソが行っていた。また、サイドアタッカーが優秀だったため、サイドチェンジからの攻撃が強烈だった。
今年、マドリーが苦しんでいるのはこの部分。エンソ・ペレスのポジションでプレーしたいクロース。そのため、CBが相手のプレッシングで苦しむ場面が目立つ。前線を1枚削り、後方を増やせば、クロースがピルロワークをこなすことができる。ただし、前線のFWの枚数問題がまた、浮上してくるわけだ。バイエルンミュンヘンは、3CBを導入したのはこのためだと思われる。ピルロワークをシャビ・アロンソがこなし、中央にレヴァントフスキーという中央に圧倒的なCFを補強した。
ボールポゼッションを高めることが出来れば、相手の攻撃機会を削ることができるので失点は減る。攻撃の形を整備できれば、守備の準備が整いやすい。ポゼッションしながら攻撃するメリットはそこだろう。逆に攻撃のポイントは素早くしかけることにありそう。ゴールへの逆算。得点力を高めるには、何処でボールを奪うかの設定が重要そうだ。セビージャはボールを奪う位置の設定、奪ったあとの攻撃構築は良かった。しかし、バレンシアのボトムチェンジにはついていけなかった。それが差になったのだろう。