CLの挑戦・ドルトムントvsユヴェントス~アッレグリの仕掛けた罠とプランB~

前回は、ユヴェントスの二年間の成長を中心にドルトムント戦を見ていった。ではこの試合には戦術的駆け引きはなかったのだろうか?いや、そんなことはない。アッレグリ監督は、巧妙な罠を仕掛けた。ドルトムントの良さを消しつつ、こちら側の長所が活きるように。

ユヴェントスの狙いは1stLegから一貫している。カウンターでSBの裏を狙うことだ。そのためには、ドルトムントのSBが高い位置を取る必要がある。ユーベは中央を塞ぐことでドルトムントの攻撃をサイドに誘導したのであった。
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1stLegのリードとここがドルトムントのホームスタジアムであることから、ドルトムントが攻撃的に来るのは自明の理。ボールを保持して得点を奪いに来るだろう。中央のスペースを埋めることでサイドからのビルドアップになる。
ドルトムントのSBの役割は基本的には横幅を作ることにある。サイドMFは中央にポジショニングすることが多い。サイドにそのままいたら数的優位を活かせないからだ。中央にポジショニングする選手の狙いはSBとCBの間のスペース。そこにランニングしてフリーでボールを持つ。もしくは、中央からのパスを受ける。しつこいようだが、中央は閉ざされている。よって、サイドからの展開になる。ユヴェントスのDFラインは、自陣のペナルティエリアの幅で待ち構える。そうすることでSBとCBのギャップをなくす。ドルトムントのSBを自陣奥深くまで、誘いこんで、そこでボールを奪ってカウンターがアッレグリの狙いであった。
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ドルトムントの攻撃の心臓は、ギュンドアンである。彼がサイドと中央にパスを配る。そこを徹底的に消した。
バイタルエリアにボールを送る手段として、SBを使ったビルドアップがある。DFラインとボランチで素早くボールを回して、SBをフリーにする。
サイドMFとバイタルエリアに位置する選手のポジショニングを使ったものである。ユヴェントスは自陣のペナルティエリアの幅で守ることにより、このMFとDFの間のスペースを規制することに成功する。
中央封鎖の意味合いは、サイドチェンジのスピードを落とすことにある。素早いサイドチェンジによって、ボールを前進させることができる。ゾーンはスライドが原則なので、相手は撤退するしかない。中央を使われるとサイドチェンジのスピードが上がる。それはパスルートの距離が縮むからだ。
まとめると、中央を封鎖することで攻撃の速度、サイドチェンジのスピードに制限をかける。SBにボールを持たせ、自陣まで引き込む。
そんな中、ポグパが負傷交代。代わりはバルザーリ。3ー5ー2にシステムを変更。しかし、これはあまりいい手ではなかった。アッレグリとしては、リードしてるしCBとSBのスペースを埋めるつもりだったのだろう。
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ペレイラがいなくなり、ギュンドアンを誰が見るか曖昧に。攻撃の起点が復活したドルトムント。その結果、サイドチェンジを何度もされる。中央からの楔が活きるようになってくる。
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後半に入り、アッレグリの修正。テベスとモラタの位置を下げる。DFで大切なのは、何処を捨てるか?彼が捨てたのは、相手のCB。その代わり、ギュンドアンのプレーエリアを潰す。
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システムは3ー7ー0。もしくは、5ー5ー0とでも言うべきか。昨年のアトレティコレアルマドリードが出した解決策。FWとMFの間のスペースを埋める。CBとSBがフリーなのでそこを起点にしたい。
5バックの利点はSBとCBの間のスペースを消してしまうこと。4ー6ー0はサイドからの攻略とCBとSBの間のスペースを狙い打ちすることで攻略できるのは、レアルマドリードが証明済み。その弱点を埋めてしまった。ただし、全体的に布陣が低すぎるので、カウンターの威力は半減している。

ドルトムントは徐々にプレスの強度を高めていく。アドリアン・ラモスグロスクロイツの投入。死なばもろともプレス。ユーベのボール保持はシステムのミスマッチがメカニズムになっている。ミスマッチをハードワークで埋めようとするドルトムントユヴェントスは、システム変更後はボールを繋ぐ意識を少し高めていた。ボールを保持することでドルトムント攻撃機会を少しでも減らそうとする。ドルトムントとしては、それは一番避けたいところで。
ドルトムントの無理なプレッシングに合わせて、マルキージオのスルーパスが炸裂。高いDFラインの裏を取ったテベスからモラタへ。完全に試合を決めるとまたもテベスが裏を取り、完全に息の根を止めるのであった。
ドルトムントとしては、ポグパ離脱後から後半までの勢いがある時に一点を返せなかったのがキツかった。同点のまま、ハーフタイムに修正を加えられたので、打つ手が狭まった。
MOMは、テベスで異論はないだろう。守備でのハードワークからフィニッシュまで。1人で試合を決めてしまった。

1stLegでは、ドルトムントからボールを奪ってカウンターという意識が強かったが2ndLegではドルトムントをより自陣に引き込む。ブロックの空いたスペースに誘い込むようなDFであった。それはほんの僅かな違いだ。それは1stLegのリードあってのものだ。自分たちの良さを発揮するより、相手の良さを消すことを優先した。前回より、相手をリスペクトした。そう、ほんの少し。そう考えると前回のリードが如何に大きいものであったかがわかる。先制点が早い段階で決まったことは、この状況に拍車をかける。テベスゴラッソから、ドルトムントに何もさせず、可能性の芽を潰し続けた完勝。この相手への対応、柔軟性こそ、コンテ時代にはなかったものだった。