ユヴェントスvsレアルマドリード~ポジティブトランジションの設計図から考えるアッレグリのゲームプラン『何故ユヴェントスは走るのか?』~

立場が変われば見えるものは変わってくる。僕らは、ある種のフィルターを通して現実を覗いているのだ。
今年は、マドリー以外で一番見てきたのがユーベだった。そんな両チームがぶつかったのは偶然なのか?必然なのか?そういうのは置いといて。実験をしようと。ユヴェントス目線で試合を見たら、レアルマドリード目線とどう違うのか?その差違はどこにあるのか?を考えていこうと思う。

■ストゥラーロ抜擢の理由
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ユヴェントスのマークの設定である。SBにはセントラルの選手をぶつける。マドリーのサイド攻撃に対してマーカーをしっかり設定した。それは、マドリーにゲームコントロールされたくない。時間を使われたくないからだ。
ボールを奪う位置を決めたら、次はカウンターの設計である。カウンターの設計・ポジティブトランジションは、ゾーンDFのポジショニングが決める。
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ペレイラでなく、ストゥラーロが使われたのはこのためであった。カルバハルにプレッシャーをかけるため、いつもより長い距離を走ることが求められる。図を見ればわかるが、主にサイドでボールを奪うもしくは、インサイドのピルロの位置でボールを奪える。そこからの攻守の切り替えを考える。
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ストゥラーロをサイドに流すのには、ここでも利点があった。カルバハルをサイドで釘付けにすると、モラタがその裏に走り込む。ペペを引き付けると、ビダルがそのスペースに。モラタのスペースメイクの動きは、ビダルが担うこともあった。
どちらかと言えば、ストゥラーロを使って、中央よりサイドで活きるペレイラではなく、ビダルをトップ下に使いたかったのだろう。守備にも貢献できるビダル。トップ下に使われたビダルは、クロースやCBにプレッシングをかけることで、守備に走り回った。

■DF⇔MF・MF⇔FWラインを狙う
ゾーンDF→ポジティブトランジション→カウンターに対して、マドリーは全体のラインを下げることで対抗。
それに対して、サイドで数的優位を作ることでマドリーのゾーンDF攻略を目指す。
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FWがサイドで起点になり、SBの位置を下げる。そこから作り直す。4ー4ー2のゾーンDFの弱点は、FWの横のスペース。SBを攻撃の起点に作り直し、インサイドにボールを送る。
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FWとMFの間のスペースでボールを保持する。中央に三枚のMFを揃えることで数的優位を作るのが主な狙いだ。特にピルロを誰が見るかがかなり曖昧であった。ここのライン間のマークが曖昧になるのはゾーンの一つの弱点である。ピルロ経由で攻撃をスタートさせることで、ゾーンの機械的なプレッシングの噛み合わせを狂わせる。
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■強かな計算、アッレグリの仕掛けたもの
アッレグリレアルマドリードから奪い取ったのは時間。ゲームコントロールを許さなかった。
ベンゼマの欠場が決まっていて、アウェイの大事な一戦。アウェイゴールを考えると、守備に重点を置いてカウンターから得点を取りに来る。つまり、レアルマドリードが4ー4ー2で来ることを読んでいた。だからこそ、プレッシングでボールを奪いにいくことでスペースを与えた。結果、レアルマドリードの攻撃を縦に急がせることに成功する。
ユヴェントスのプレッシングは、マドリーの戦術を固定するためのものであったのだ。プレッシングにより、スペースをわざと与えた。アンチェロッティとしてはアウェイゴールを取りたいという誘惑がある。それにより、マドリーが動くのを制限した。それこそがアッレグリの仕掛けた罠だったのだ。
それに対して、アンチェロッティは後半途中にプランの変更を余儀なくされる。4ー3ー3に変更して、ボールポゼッションを高めて、ゲームをコントロールしようとする。この交代は、攻撃のためよりは守備のためということが大きい。ボールを保持することで相手の攻撃機会を削ろうということだ。
そこまで、読んでいたアッレグリ。直ぐ様、バルザーリを投入して、3ー5ー2に変更。リードされた状況下でマドリーが必要なのは、時間。ボールを積極的に奪いにいき、ボールを保持することで自分たちの攻撃の時間を増やしたいところだ。よって、マドリーがプレッシングを強めるであろうことは予測できる。だからこそ、3ー5ー2にしてボールを保持しやすくする。奪いに来たところをカウンターで牽制する。コンテがユヴェントスに3ー5ー2を導入したのは、ピルロを最大限に活かすためであった。フォーメーションのミスマッチを利用してボールをポゼッションする。無理なプレッシングは相手の攻撃を活かすことになる。
3ー5ー2で一番の問題は『WBを誰が見るか?』問題である。
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中央のビルドアップに対してのマーカーの人数はピッタリなのに対して、サイドのWBのポジションが浮いている。SBがマークに行けば、そのスペースを使われる。SBがポジションを守れば、ドリブルでボールを運ばれる。特に右サイドからボールを運ぶシーンが多かった。リヒトシュタイナーのドリブルでボールを運ばれる。このままでは不味い。マルセロ→プレッシング→テベスの裏抜けのシーンが目立った。テベスのフィジカルとドリブルで、マイボールにしていく。
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SBの裏のスペース。ペナルティの角のスペースを消すことでマドリーの攻撃を制限する。3ー5ー2の変更でもカウンターの狙いは変わらない。ゾーンDFのポジショニングがそのままカウンターに活きる。ユーベの攻撃の狙いは一貫していた。SBの裏、特にカルバハル、セルヒオ・ラモスのいる右サイド。カルバハルとセルヒオ・ラモスは何度も上下動することになった。結果、マドリーで走っている選手の二位と三位になった。
データはデータでしかない。そこに根拠を求めていったら間違ったものになってしまうし、サッカーを見る意味がなくなってしまう。では、データは何に使えるのか?それは裏付けである。データは嘘をつかない。それは確固たる証拠になるはずだ。
一方のユヴェントスはどうだったのか。ビダルマルキージオピルロの走行距離は11㎞を超えた。上記のようにかなりの運動量を求められるポジションだったからだ。それは、マドリーのネガティブな意味合いとは大きく違う。
ユヴェントスは、チームとしても走行距離という面でレアルマドリードを大きく上回った。だからと言って『マドリーが走っていないから負けた』とするのは少し横暴だ。僕たちが考えなくてはならないのは、『何故、ユヴェントスはそんなに走らなくてはならなかったのか?』である。そこには戦術的なアプローチがあった。プレッシングで試合をコントロールして、カウンターから得点を奪う。アッレグリの確かなゲームプランがあったのだ。