W杯の探求・ブラジルvsチリ~トランジションの違い~

サッカーにおいて、ボールを奪うことは得点を取ることと同意義である。サッカーにおいて一番得点が動くシーンは、攻守の切り替えから起こる。攻撃的チームは、ボールをどこで奪うか、どうやって奪うかを設定することが大切になってくるのだ。つまり、得点を取るためには、ディフェンスでボールを奪うメカニズムを整備する必要があるのだ。まさしく攻守は一体である。


ブラジルの攻撃のメカニズムは、ボールを奪うことで加速する。ボールを奪うと同時に縦に早く展開するのが大きな特徴になっている。4ー4ー2のゾーンディフェンスである。そのため、ブラジルとしてはどこでボールを奪うか?が鍵なのだ。
チリはそんなブラジルに対して正面突破を画策する。スペイン戦では、ロングボール大作戦であったが、この試合ではしっかりとボールを繋ぐ。やっぱりあれは、スペイン対策だったのだろう。チリの仕掛けは、ブラジルとは全く逆である。ブラジルがゾーンを崩しプレッシングにくると、攻撃が加速する。プレッシングを行うと、当然その選手がいたスペースが空く。チリの連動したパスワークは軽々とブラジルの守備を外す。だったらボールを取りに行かないぜ!というブラジル。それだったらボールを取りに行かないで、カウンター狙いである。チリが無理に繋げば繋ぐほど、カウンターのチャンスは広がりそうだ。

■4ー4ー2の狙いどころ
とういうことでチリのボール保持について見ていくとしよう。
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「4ー4ー2の狙いどころは、FW周りののスペースです。両FWの間、FWの横のスペース。ここは構造上どうしても空いてしまうスペースになるので、ここでは比較的安全にボールを持てるのです。チリはこのスペースからボールを持つことで攻撃を仕掛けます。次に狙うのは、MFの間のスペースです。ビダルとアランギスを設置することでチリはブラジルのラインを崩しにかかります。」
それに対して、ブラジルはボールの出しどころを潰す作戦。フッキが高い位置までプレッシングにいく。連動してマルセロがイスラにつけばなんとかなりそう。それをさせないアレクシス・サンチェスであった。
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アレクシスがサイドに流れて、マルセロを牽制。それに連動して、アランギスがバイタルエリアに。こうしてサイドの攻防を支配していくチリであった。
「ここで効果的に機能していたのがチリのロングボールです。無理なときはDFラインの裏に放り込み、連動したプレッシングでブラジルを苦しめます。チリは良い形でボールを保持できているので、仕掛けるタイミング、プレッシングをかける時間帯をコントロールできていました。」


■活路を見いだす「やっぱりロングボール」

バイエルンvsドルトムントの決勝がそうだったように、繰り返されるゲーゲンプレス対決である。ブラジルが取った作戦は、『ボールを奪えないから攻撃できない。だったら、無理矢理、ボールを奪う形にすればいい。』である。ロングボールを相手に当てることでトランジション対決(攻守の切り替え合戦)に持ち込む。これにより、ブラジルがボールを保持する時間を確保する。強引なボール支配だ。
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「ブラジル、チリ共に面白かったのは、意図的にロングボールを使うことで守備の陣形を整えていることです。ブラジルは無理矢理ボールの奪いどころを作ることで、流れを引き戻しました。チリは、逆にブラジルに反撃をさせないように、時折ロングボールを混ぜていて効果的でした。」




後半になるとラミレスが登場。この時のラミレスのポジショニングは面白かった。ラミレスをサイドに配置し、マルセロをインサイドに置く。チリの守備が手薄なところをドリブルでボールを運べるマルセロを配置するブラジル。右サイドもアウヴェスにインサイドを攻略させることで活路を見いだすのであった。

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ブラジルのボール運びが改善されたことで、チリは押し込まれる時間が出てきた。ブラジルのボール保持増加→チリのボール保持減少である。チリはなんとか流れを引き戻すために、アレクシスとバルガスに全てを託す。ブラジルは前述の通り、ロングボールからのプレッシングだ。よって試合はロングボール合戦になる。そんな互角の流れでチリの決定機はバーに阻まれ、PK戦へ。PK戦からブラジルが勝利をもぎ取る。


ブラジルの一番の武器は、ポジティブトランジションである。(ボールを奪った後の攻守の切り替え)ボールを奪ってからのシステマチックな動きが特徴になっている。
チリは、その逆でネガティブトランジション(ボールを奪われた後の攻守の切り替え)が優れている。
そのため、チリがボールを保持することでブラジルの攻撃を封じていたのが印象的だった。それに対してブラジルは強引な力業でボールを奪うポイントを作った。これが試合のターニングポイントだろう。ブラジルはボールを保持していても、普通に攻撃ができる。そのため、ブラジルがボールを持つことで、チリのボール保持を防げていた。
これを書いている時点でブラジル、コロンビアの結果が出ている。試合のターニングポイントはブラジルのディフェンスに対するコロンビアのボール保持になるだろう。また、次のドイツはひたすらポゼッションを追及するチームである。ネイマール無しでブラジルがどこまでできるか。ブラジルの意地が勝つか?今度こそドイツが優勝する年になるか。楽しみである。