セリエの冒険・ラツィオvsユヴェントス~アッレグリのユーベ、変わったもの、変わらないもの~

実は何度かアッレグリユヴェントスについて書いていたのだが上手くまとまりきらなかった。ローマ戦でのプレッシングでビルドアップを封じたのは記憶に新しい。ディフェンス面での変化だけでなく、攻撃面にも注目してみよう。ということでラツィオ戦である。パルマ戦からの継続である4ー3ー1ー2(テベスの位置の解釈によっては4ー3ー2ー1)だ。コンテの代名詞である3ー5ー2をとうとう弄ってきた。その狙いはどこにあるのか?

パルマ戦~アンチ3ー5ー2~
3ー5ー2に比べて、一番の変化はビルドアップ部隊が1人少ない。その分、攻撃の枚数が一枚増えている。最近のユヴェントスへの対策として、ビルドアップ舞台を放置して、自陣に引きこもるチームが多い。むしろ、受け手をカバーする。ゾーン+DFラインの迎撃システムで徹底的に受け手を潰す。完璧にこなしたのがアトレティコ。元々ピルロをいかに自由にするか?という発想からきているので、そこがある程度、自由なら、攻撃の枚数を増やすのは当然の考えだ。
パルマのフォーメーションは3ー5ー2。セリエで3バックが流行っているのは、ユヴェントスに形を合わせているからだと勝手に推測している。フォーメーションが同じだと、何がいいか?マッチアップが分かりやすい。ユヴェントスの3ー5ー2はWBを誰が見ればいいか曖昧にしているところに利点がある。同じフォーメーションならばWBにWBをぶつければいい。マークが噛み合うので、噛み合わせるためのズレが起こりにくい。
ところが今日は様子が違う。トップ下にフェレイラがいる。ということでマッチアップの人数が足りない。計算が合わない。ユーベのビルドアップ部隊は1人減って3人。そこからボールを奪えそうではある。ただし、パルマのプレッシング部隊は二人。内1人はカッサーノ。ということで好き放題、ユーベにパスを回される。特にリヒトシュタイナーペレイラの絡みは狙っていたのだろう。右サイドからの突破で何度も何度も揺さぶる。
前線に一枚、増えたことはプレッシングでもメリットがある。パルマの3CBでのビルドアップに対して、通常の3ー5ー2では枚数が足りないのでゾーンで守るしかない。しかし、今日はペレイラテベスジョレンテの3枚がいる。パルマに全くボールを持たせない。主にペレイラユヴェントスの右サイドを守っていた。
ラツィオとの攻防~サイドの崩し~
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ラツィオユヴェントスのビルドアップ隊が1人いなくなったところをつく。懐かしのピルロ対策である。3トップでプレッシャーをかける。しかし、今日はマルキージオというもう1人のゲームメイカーが。アッレグリの狙いはここであった。マルキージオにプレッシングをかけたところを利用して崩そうとする。
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アッレグリの頭の中
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それに対して、ラツィオブラーフハイトが飛び出して来て対応する。その分、リヒトシュタイナーのサイド攻撃が活きるも迫力不足。おそらくまだまだ全員の共通理解が足りないのだろう。選手たちにも迷いがあった。
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そうこうしているうちにカウンターから点を取るユーベ。フリーのピルロからテベス→ポグバ。

相手を押し込んだ場合は3ー5ー2に近い形でパスを回していく。ピルロマルキージオキエッリーニボヌッチの四人。ペレイラとポグバがゾーンの隙間でパスを受ける。

後半に入ると修正がかかる。ペレイラがより低い位置に落ちてくるようになる。ついてくるブラーフハイト、空いたスペースをつくマルキージオ。デ・フライとサナが慌ててスライドするもフリーのテベスへ。前半は落ちてくるマルキージオに対して、飛び出して行くペレイラであったがその役割を入れかえたわけだ。
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やっている選手はユヴェントスでもフォーメーションが違う。枠組みは違う。そのため、ピッチに現れる現象も少し変化が生まれている。リヒトシュタイナーと絡むペレイラピルロを助けつつ、飛び出して行くマルキージオ。得点能力を開花させたポグバ。それぞれの良さが色濃く反映されている。コンテの時は良くも悪くも誰が出ても同じサッカーであった。自分たちの土俵に無理矢理持っていって、相手の対応によってパターンを変えるのがコンテのやり方であった。どんな相手でもプレッシングをかけてボールを奪いにいく。アッレグリは選手の個性をより重視している。そのために枠組みを変える。選手の能力を発揮させるため、選手が自由にプレーできるためだ。コンテ監督に比べ、ピッチでの対応力や柔軟性は増してきている。この試合には出ていないビダルが居場所を見つけられるか。後は、選手の戦術理解度にかかっている。

セリエの試合では選手達は盤上の駒である。監督は駒を自在に操る。駒である以上、選手の自由意思というよりは監督の指示を忠実に守れるか。与えられた役割をこなせるかが重要になってくる。選手は個である前に集団なのだ。ただ、その集団を崩すのが圧倒的個の力である点がなかなか興味深い。ユヴェントスがCLで勝てないのはこの個の力による面が大きそうである。では個の力とは何か?もう少しで核心に迫れそうである。

CLの挑戦・シャルケvsチェルシー~モウリーニョとアンチェロッティのチーム作りの違いについて~

僕がひそかに期待をしていた、見るのを楽しみにしていたチームがある。それはチェルシーだ。モウリーニョの二年目のチームが文句なしに強いからだ。本人も「私のチームは二年目が一番強い」と認めている。加えて、今年の補強が魅力的だったからだ。CL準優勝のアトレティコから躍進の立役者を強奪。ジエゴ・コスタ、クルトワ、フェリペルイス。まさかのバルセロナからセスク・ファブレガスの獲得。 モウリーニョシメオネのコラボレーションはどんなチームになったのだろうか?
見ていて、僕は非常に懐かしい感覚に襲われた。モウリーニョらしいチームだなと。よく走る攻撃陣、カウンターのスピード、サイドに張った両ウイング、自陣での鉄壁の守備。それは、僕がモウリーニョのマドリーを三年見ていたからかもしれない。レアルマドリードの攻撃の役割をそのままチェルシーに当てはめると上手く理解できる。ロナウドアザール、オスカル⇔エジル、ウイリアン⇔ディマリア。モウリーニョのチームらしく、サイドからのビルドアップが目立った。中心部分を担ったのがセスクである。
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チェルシーの攻撃の大きな特徴の1つとして、(モウリーニョのチームと言ってもいいだろう)サイドに大きく開いた両ウイングの存在がある。サイドからのボールの循環である。中央でボールを受けるのはセスクとオスカル。オスカルはポジションを下げ、セスクはポジションを上げてボールを受ける。勿論、両ウイングにプレッシャーをすぐかければボールを奪えそうだ。そのために裏に抜けるジエゴ・コスタ。裏に抜ける動きはセスクやオスカルが担うこともある。両ウイングにプレッシャーがかからなければ、そこからウイリアン、アザールのドリブルが炸裂する。

ここで大事なのは状況判断。ドリブルするのか?パスをするのか?パスは誰に出すのか?縦パスか横パスか?この一つ一つの判断スピードがもの凄く早い。シャルケよりプレーのリズムが早い。モウリーニョは、練習でこの状況判断について指導するらしい。縦に仕掛けるべきか、ボールをポゼッションするべきか。f:id:real714:20141128203618p:plain
この縦パスから縦に抜けるオフザボールの動きはマドリーのカウンターにそっくりである。これは、チームの約束事なのだろう。スペースがなければ作る。裏に走る選手の存在がシャルケのDFにエラーを引き起こす。
オスカル、セスクの仕掛けはMF同士の間にポジションをとること。サイド→中央の循環により、フリーでボールを持つことができる。攻撃の仕掛けは彼らがフリーでボールを持つことで縦パスを前線に送り込むことでスイッチを入れる。主なパターンとしてセスクが持ったら裏に走るジエゴ・コスタというパターンが見られた。レアルマドリード風に言うとエジルロナウドのホットラインだ。
サイドまでボールを運ぶ役割を担うのがマティッチ。初めて見たのはヨーロッパリーグの決勝。繋げる、守れる、運べるの三拍子揃った希有な選手。デカイモドリッチみたいなプレースタイルになっている。彼がいるおかげでセスクも自由にプレーできているようだった。

ジエゴ・コスタの役割は裏に流れたり、サイドに流れること。ウイリアンとアザールが中央にポジションを取っているときはサイドに流れていた。単独でボールを運べるジエゴ・コスタ、アザールによってどんどんシャルケ陣内に侵入していく。f:id:real714:20141128203837p:plain

前線の選手は何度も裏に走り抜ける動きをする。そのため、前線の四枚は流動的。特定のマークをつけさせないため、ポジションを変化させていく。
オスカルはこのチームで一番気が利く選手だ。アザールの分まで守備に戻ったと思うとサイドのスペースに飛び出す。ビルドアップ時には、セスク、マティッチがボールを持てなければ下りてきて数的優位を作る。
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シャルケは落ちてくるオスカルを上手く捕まえられない。時間を得たセスクからのスルーパスジエゴ・コスタというパターンは何度もあった。
カウンターでは4ー3ー3気味に変化。前線三枚のボールを運ぶ能力は異常。1人で何枚ものDFのプレスをかわしながら前線にボールを運ぶ。ボールを運んでいる間に後方からの選手の押し上げがある。

モウリーニョのチームらしいのは、システムに選手を当てはめることで自分の役割を理解させているところか。ドリブルでボールを運ぶべきか、ボールを回す時間か、そういったプレーの選択に無駄がない。チームにはおそらく細かいルールの設定がある。そのルールの設定によって選手の個人能力が高まっている。選手のプレースタイルに合わせて、システムを決めるのがアンチェロッティなら、モウリーニョは選手のプレースタイルを決める。役割を与えて、選手の個性を伸ばす。彼の元でワールドクラスになった選手が多いのはそのためだろう。そのため、どのチームでも同じように見える。だからこそ、短期間で結果を残してきた。守備の仕上がりはまだまだだが、モウリーニョのことだからしっかり仕上げてくるだろう。

セリエの冒険・ナポリvsローマ~4ー2ー3ー1vs4ー3ー3ビルドアップの違い~

セリエA上位対決。CLがないナポリとCLでボコボコにされたローマ。目指すは打倒ユベントス。そんな両チームの一戦は思いもよらぬ、大差がついてしまう。結果だけではない。注目すべきは、ローマがほとんど効果的にボールを運べなかったことにある。何故ローマはボールを運べなかったのか?
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ナポリの守備時の布陣である。基本中の基本。4ー4ー2のゾーンディフェンス。ナポリ監督のラファエルベニテスの十八番である。ハムシクはケイタを見ることが多かったので、実質4ー4ー1ー1である。ローマのビルドアップの仕組みは、中盤の三枚がボールを持つことにある。そこからの数的優位でボールを前進させる。ならば彼等にボールを渡さなければいい。
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ナポリの狙いは、ハムシクイグアインで絶えず、マノラスとヤンガンビワにプレッシャーをかけることであった。ローマが支配したいスペースはFWとMFの間のスペース。そこの距離を狭めることで、ナインゴランとピャニッチを封じる。
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ポイントは献身的に守備に参加するFW。彼等がボールホルダーを追い込むことで、ボールカットの確率を上げている。FWとMFとDFのそれぞれのライン間がしっかり統率されているので、コンパクトになっている。
ローマの攻撃が必ず中盤経由なのに対して、ナポリの攻撃は必ずSB経由であった。この違いは面白い。CB→SBルートでのパスルートで前進する。
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相手のサイドMFがプレッシャーをかける前に、インシーニェもしくはカジェホンにパスを通す。彼等はハムシクにパスを通すのが狙いである。もう少し詳しく見てみよう。
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サイドMFの役割は、相手のSBから離れるようにしてボールを受ける。そうすることで一瞬フリーになる瞬間を作る。カジェホンはサイドに位置していることが多かったが、インシーニェは内側でボールを貰う動きをしていた。彼の得意なプレーはカットインしてシュートするパターンだからだf:id:real714:20141124072756p:plain
インシーニェを止めたいトロシディスは、当然フリーでボールを持たれないように、マークに行く。そうしたらハムシクをSBの裏に走り込ませる。
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CBを釣り出したら、そこにサイドMFが飛び出してくる。元レアルマドリードコンビのイグアインカジェホンの得意なプレーだ。それでも相手がついてくるようなら、SBの攻撃参加で厚みを加える。


ローマはデロッシがいればもう少し変わっただろう。3バック式ビルドアップでハムシクの横のスペースにCBを攻撃参加させてればもう少し変わったはずだ。試合はナポリの一方的な展開に。イグアインのラッキーなゴールで先制すると、キレキレのインシーニェがひたすらローマの守備陣をかき回し続ける。前半にローマがほぼノーチャンスだったことを考えると、ベニテスのゲームプランが完璧だったことがわかる。
ナポリの攻撃の際の選手の動き方が機械的に、徹底されていたのが印象に残った。それは守備の際もだ。システマチックなチーム作りはベニテスの十八番である。4ー2ー3ー1という布陣はサイド攻略のためのパス回しのために、効率よく選手を配置したシステムなのだと感じた。モウリーニョのマドリーもそうだった。そこら辺をもう一度考えたい。

CLの挑戦・ローマvsバイエルン~グアルディオラの3ー4ー3への再チャレンジ~

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ちょうど、このブログでグアルディオラ以降のバルセロナを考えるという企画をやっていた。グアルディオラの理想を考えるために、バルセロナの変化を見てきた。過去の試合を焼き直ししていたわけだ。そんな企画にはおあつらえ向きな試合である。グアルディオラのチームのフォーメーションは分かりにくい。誰が何処にいるのか?役割は何なのか?見失いやすい。そこでバルセロナ的解釈をすると見やすくなる。分かりやすくなる。今回はそういった企画になっている。この記事が誰かの理解に役立ててれば幸いである。

圧倒的な強さを示したバイエルンミュンヘン。実験を続けるグアルディオラ。そのチームの姿はかつてのバルセロナにそっくりであった。違いがあるとすれば、いる選手が違う。バイエルンミュンヘンには、メッシもシャビもイニエスタもいない。その変わり、ロッベンリベリーに、レヴァントフスキーがいる。サイド攻撃で試合を破壊する選手に、現役最高峰のストライカーだ。それは昔、バルセロナに欠けていたものであった。グアルディオラの望みはただ一つ。完璧に近づくこと。未完成に終わった3ー4ー3の完成を目指す。
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両チームのマッチアップを簡単にまとめてみた。ローマが守備時に4ー4ー2のゾーンで守るのは周知の事実だろう。そうなると大体このようなマークになる。なお、立ち上がりのローマの攻勢はイトゥルベがFWの位置に上がり、3トップで3CBにプレッシングをかけたことから始まっている。ボールを保持したいバイエルンは、形を変える。マッチアップを変更する。ローマのマークを狂わせる。
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アロンソは3CBを助けるためにアンカーの位置に。ゲッツェミュラーが下りてきて、ラームと共にゾーンの隙間にポジショニングする。ゾーンの隙間とはMFの間のスペースのことをいう。ベルナット、ロッベンは高い位置にかけ上がる。
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ロッベンとベルナットのマークがトロシディスとアシュリーコールに入れ替わっている。逆にゲッツェミュラーは誰が見ればいいか非常に曖昧なポジショニングに位置している。注目すべきはイトゥルベとナインゴランがマークを見失っている点である。グアルディオラの狙いは中央での数的優位を作ることにあった。そして、この形はバルセロナの3ー4ー3にそっくりなのだ。ラームがシャビ、ゲッツェイニエスタミュラーがメッシの役割をしている。
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中央での数的優位を作れば、後はパスを回すだけで相手が崩れる。アロンソデロッシがプレスに行けば、ラームがフリーに。ピャニッチがスライドしてもミュラーがフリーに。中盤の圧倒的数的優位を活かして、ローマの陣地を越えていく。
中央を固めて、数的同数を揃えることも考えられそうだ。ゲッツェをイトゥルベが見るパターンである。そうなれば、アラバが後方から上がってくる。3CBにしている理由がここにある。ベナティアとアラバの役割は後方からの攻撃支援であると共にスペースを埋めることにある。昨年はこのスペースに選手がいなかった。そのために、レアルマドリードのカウンターに屈した。グアルディオラはしっかりと対策を練っていた。中央を固めた際の後方支援では、アラバはサイドバックとして振る舞う。ベナティアとの連携でPKを獲得したシーンはそれを象徴した場面であろう。
ではゲッツェとラーム、ミュラーは誰が見ればいいのだろうか?
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それを見させないために、ベルナットとロッベンの配置であった。レヴァントフスキーが中央に配置されているのはDFとMFの間のスペースを作るためである。バルセロナでのビジャの役割を思いださせる。勿論、マークにつかなければラーム、ゲッツェがフリーでボールを運ぶ。そうなれば前線でも数的優位ができる。プレスに行くのに、ズレが生じる。その時間差を利用して崩す。ゲッツェとレヴァントフスキーのドルトムントコンビの連携にミュラーを絡めたものは強烈だったし、ラームとロッベンのサイド突破は相変わらずの破壊力だった。
まだ終わりではない。グアルディオラはDF面でもしっかりとしたローマの対策をしてきた。
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ローマのビルドアップの数とバイエルンのプレッシングの枚数がピッタリ一致している。ローマはボールを繋ぐこともままならない。これがミュラーがこの位置で使われている理由だろう。守備時にはミュラーとレヴァントフスキーの2トップになって、ローマにプレスをかける。

昔のバルセロナにはサイドを単独で崩せる選手がいなかった。バイエルンには、ロッベンリベリーがいる。バルセロナだったらテージョやクエンカである。ストライカーも圧倒的なポテンシャルを持ったレヴァントフスキーがいる。ビジャやアレクシスにはない高さがある。3CBの人材難もあった。バイエルンには現在、ダンテ、アラバ、ボアテング、ハビマルティネス、ベナティアがいる。ということで、バルセロナの時の課題を全てクリアしつつあるグアルディオラ。これに、シュヴァインシュタイガー、チアゴアルカンタラがいるのだから末恐ろしいチームである。バルセロナとの違いは、インテリオールにサイドバックの選手を起用している点だろうか。後半にはアラバもこの位置で使われている。最期にバイエルンのベストメンバーを考えて終わりにしよう。
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グアルディオラ以降のバルセロナを考える・グアルディオラ不在で失われた物~2012/2013コパデルレイ準決勝2ndLeg~

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メンバーにカンテラ軍団を並べてきたビラノバ。ピントとアウヴェス以外は、全員カンテラーノというのは少し異常だ。バルセロナバルセロナらしさに賭けてきたのか。
バルセロナに合わせて臨機応変に形を変えることで対応したバイエルンミュンヘンだったが、同様な手法で攻略したレアルマドリード。時間系列的にこちらの試合のほうが先に来ている。ハインケンスはこの試合を参考にしていた可能性が高い。もっとも、ハインケンスの対策のほうが完成度が高かったのは言うまでもない。それは全員が守備で走るという課題をこなしていたからだろうが…。バイエルンが良かったのはマッチアップを固定することで、バルセロナの中盤に全くボールを持たせなかったことだ。シャビvsシュヴァインシュタイガーイニエスタvsハビマルティネス。両者ともに何度もボールを奪うことに成功している。
ゾーンとマンツーマンの併用。マッチアップゾーンと言えば、モウリーニョの得意技である。
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イグアインエジルがピケとプジョルにプレッシングにいくとブスケツの部分が空いてしまう。レアルマドリードが捨てたのはこの部分であった。FWとMFの間のスペースである。モウリーニョの狙いもここだった。つまり、FWとMFの間のスペースでボールを奪うこと。バルセロナに対して中盤でやり合うことだ。
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最終ラインは高めに設定。中盤のスペースを狭めて、コンパクトにする。無論、バルセロナの選手たちもスペースがない場所でプレーすることができる。狙いは、ボールを奪いやすくすること。プレッシングに行く距離を縮める。
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バルセロナの選手たちのパスワークの秘密は、数的優位の形成にある。中央に人数を集めて、相手のプレッシングの時間差を利用してボールを進める。そのため、どんなにスペースを狭めても突破されてしまう。必要なのは時間だ。ボール保持者が持つ時間を利用してボールを前進させる。モウリーニョの狙いは時間を奪うことだった。ボールホルダーに絶えずプレスをかけ続けることで、バルセロナから時間を奪う。
ブスケツケディラがプレッシングをかけている状態なら、シャビとブスケツケディラアロンソで2対2の状態になる。セスクとメッシにはヴァランとラモスが飛び出すことで対応した。このために最終ラインを高くしたのだ。
これではボールを前に運べない。そもそもブスケツは何故フリーでないのか?
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そのためのイグアインエジルのプレッシングであった。バルセロナのボールポゼッションは、後方の数的優位を前提にしている。もっと言えば、後方でフリーでボールを持つことが必要条件なのだ。モウリーニョはその前提を崩しにかかる。ブスケツが落ちてCBを助ける動きをしなかったのは何故だろうか?マドリーもビジャレアル戦は同じ状況に陥った。
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中央がダメならサイドから、高いDFラインの裏を狙うペドロ。狙いはサイドにスペースを作ること。アウヴェスが右サイドで起点になる。左サイドはイニエスタが中央に侵入してくる。四人でダメなら五人だ。中央にカンテラクインテットで中央攻略を模索する。
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ディマリアがジョルディアルバに何処までもついていくことでサイドのスペースを埋める。そうすればアルベロアは中央のイニエスタについていくことができる。
ビラノバカンテラーノ5人を並べたバルセロナの中央突破をしてきた。ゾーンの隙間にボジショニングして数的優位の形成。ボールホルダーをひたすら自由にして前進バルセロナバルセロナらしさを追及したものであった。ゾーンディフェンスのような狭いエリアでもパスワークで崩していく。
それに対して、プレッシングで対抗するモウリーニョ。プレスの連続で、バルセロナのボールホルダーを自由にさせない。モウリーニョが見事だったのは各マークの設定であった。
気になったのは、(不可解だったと言った方が良かったかもしれないが…。)バルセロナがマッチアップを変更するポジションチェンジをほとんどしなかったことにある。マルティーノの時のバルセロナにあったのは、フォーメーションが途中で変わり、マッチアップ(つまりはマークを変更する。)動きをしていた。分かりやすく言えば、メッシが下りてくるのに対して、スペースに飛び出すFWがいなかった。そのため、マドリーのプレッシングに屈してしまったわけだ。マルティーノは、グアルディオラ的な発想でバルセロナに本来ないものを持ち込んだ。ビラノバは、逆でバルセロナらしさを追及したという事実はなかなか興味深い事実だ。
次回は、いよいよグアルディオラバルセロナになる。ここまでなかなか長かった。もう少しだ。ここまでついてきてくれてありがとう。あと少しお付き合いお願いしたい。

グアルディオラ以降のバルセロナを考える・ハインケンスのバイエルンの対応力~2012/2013CL準決勝~

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僕がこの試合について書くのは3回目になる。それだけ記憶に残っているのか。印象に残った思い入れのある試合だということは確からしい。世間ではバルセロナ終焉説が流れたのもこの試合が終わってからだった。まずは両チームのメンバーのマッチアップを確認しよう。
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4ー2ー3ー1のバイエルンバルセロナのマッチアップからマークが上手く噛み合う。何故このような噛み合わせにしなければならないのか。それはバルセロナの得意な形。中央からのボール運びと関係がある。
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バルセロナでの特別な選手はブスケツである。彼の仕事はMFとFWの間のスペースを攻略すること。彼はFWの間のスペースにポジショニングを取る。それによってCBと後方で数的優位を得ることができる。ブスケツがフリーでボールを持てれば、中盤に3対2の状況を作る。これによって、中盤の中央からボールを運ぶ。それに対して、トップ下の選手をブスケツにぶつけるやり方が流行る。
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バイエルンはマンツーマン気味にそれぞれの役割を固定した。要は、バルセロナにフリーな選手を作ることは危険だと判断したわけだ。そこで、バルセロナはいつも通りに形を変える。マッチアップを変更することでボールを前進させようとする。
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リベリーロッベンの守備の相手をぼやかすと共に、イニエスタ、メッシ、ブスケツ、シャビのカンテラカルテットでボールを運ぼうと企む。中盤は4対3の数的優位な状態である。バイエルンは考える。3人でダメなら4人だ。
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こうして生まれたのは4ー6ー0のゾーンディフェンスである。中央で4対4の数的同数を揃えることでバルセロナのボール運びを妨害する。ピケ、バルトラのCBコンビがボールを運ぶことは許容する。しかし、中盤には意地でもボールを持たせたくない。目的は中央のスペースを封鎖すること。そんな意図が見える。流石のバルセロナもこれではボールを前進させることは困難である。中央がダメならサイドからそんなバルセロナはまたも形をいじる。
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ここにマンツーマン型のメリットがある。しかし、何処までもついていく、シュヴァインシュタイガーとハビマルティネス。シャビとイニエスタがポジションをいくら変えようが絶え間なくついていくことでボールを持たせない。待たれるはCBの攻撃参加であった。
それはもちろん罠だ。リベリーロッベンという極上のサイドアタッカーを持つバイエルン。CBの攻撃参加の裏のスペースを狙いまくる。

前回書いたように、バイエルンドルトムントのゲーゲンプレスを使う。狙いは高い位置からのショートカウンター。ゾーンからマンツーマンの移行である。低い位置では中央封鎖の4ー6ー0とマッチアップゾーンで中盤にボールを持たせない。ボールを奪ったら、ロングボールでボールと共にマンツーマンプレッシング型に切り替える。
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面白いのはロッベンのマッチアップを変更しているところだろう。連動してラームはジョルディアルバにプレッシングをかける。高い位置からのハイプレスで大事なのは、相手の枚数に合わせてこちらの枚数を揃えることだ。ロッベンをCBの裏に走らせることで、マッチアップをピケに変更している。ブスケツカバーリングがめんどくさそうだが、そこにはミュラーをぶつけてある。
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ミュラーが走り込む場合は、リベリーが中央に。パリ戦でもそうであったが、このトップ下の選手の役割が非常に重要になってくる。アトレティコと同じように、ロングボールでゾーンからマンツーマンに守備を変更することでバルセロナを苦しめたのはなかなか面白い事実である。
バルセロナの長所は、ボールを扱う技術ではない。相手に合わせて変幻自在に形を組み換えることにある。バイエルンは、自在に形を変更することで完璧にバルセロナに対応した。低い位置でのゾーン。高い位置からのハイプレス。これを支えたのは、FWやウイングの貢献である。しっかりと低い位置まで戻ることでゾーンの守備を維持した。
バルセロナの問題は、SBの裏のスペースを使われることであった。CBを捨てるバイエルンの守備に対して、攻撃参加を許可した後半はカウンターの餌食になる。バイエルンがセットプレーから2得点を決めたのは出来すぎな内容であったが、この後のアトレティコ戦でもセットプレーから失点していることを考えると偶然ではない。また、昨年ではレアルマドリードもカウンターからセットプレーでバイエルンにリードを許している。中央を塞がれ、サイド攻撃をしなければならない。そこにCBを突撃させて、スペースを空けることになっている。グアルディオラが3ー4ー3にチャレンジしたのはそういった意味合いが強いのではないか?
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この試合では残念ながら見られなかった3ー4ー3。ポイントは白い円の部分のスペースを埋める選手がいることにある。攻撃時には、サイドからの数的優位を作る。守備時はカウンター対策。ロッベンリベリーを押し込むのが彼等の役割であったわけだ。
サイド攻撃と中央突破のバランスを作るのにかなり苦労したビラノバ。この問題は、マルティーノにも持ち越される。中央の数的優位を維持しつつ、サイドにも人数をさかなければならない。更にはカウンターの対策をしなければならない。この試合でビラノバが3ー4ー3を選択しなかったのはクラシコでカウンターの餌食にあったのも無関係ではないだろう。マルティーノがポジションチェンジによるスペースを利用するサッカーであったのに対して、ビラノバは数的優位を作るサッカーであった。ちなみにこの時点で、ビラノバはベンチにいない。監督代行のロウラがベンチには座っている。その影響もあったのか。
守備の幅、攻撃の幅、ありとあらゆることをできないと勝てない。そういう意味ではハインケンスのバイエルンミュンヘンは最高傑作と呼ぶのに相応しいものであった。

グアルディオラ以降のバルセロナを考える・時間とスペースのコントロール~2013/2014リーガ最終節~

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優勝争いが最終節までもつれ込んだ昨年。奇しくも直接対決である。滅多にない珍しい機会。お互いガチンコであった。最もアトレティコジエゴ・コスタ、アルダが次々に負傷する自体に陥る。
本家・本元の4ー6ー0の使い手アトレティコマドリード。弱点は一応、ある。それは相手のCBを自由にしてしまうこと。そこからの数的優位を作ったり、パスを通されると話はまた変わってくるわけで。勿論、パリ戦でもそうだったようにCBの攻撃参加はカウンターのリスクが伴う。それでもやらないよりマシである。何よりボールを奪われなければ問題はない。
クラシコの後になったこの試合、注目点はアレクシスとペドロの起用、シャビのベンチスタートである。因みにこの試合の使われ方に不満を持ったシャビが移籍志願を出すのはもう少し後の話だ。中央を固めるアトレティコに対して、サイドからボールを運ぶのは定石である。セスクが起用されたのは、メッシがサイドに降りてきたときに飛び出す役割を担わせたかったから。サイドの突破が得意なペドロ、アレクシスを使うには、シャビを落とすしかない。
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ブスケツからセスク、イニエスタの展開でアトレティコを崩そうとする。バルセロナの狙いはFWの横のスペース。右サイドは、メッシも下りてくるのでなかなかの迫力であった。しかし、粘るアトレティコ。繰り返されるコケvsダニエウアウヴェス。ギリギリで守るも、アトレティコは効果的な攻撃を仕掛けられない。立ち上がりこそ、プレッシングからの速攻でバルセロナを押し込めたが、ボールの奪いどころがない。ハーフタイムに修正を加える。
後方の三枚からのビルドアップを防ぐためにラウールガルシアを前線に上げる。
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これに連動してファンフランアドリアーノを見る。バルセロナのビルドアップに合わせてマークを噛み合わせてきた。ラウールガルシアはマスチェラーノとの空中戦でも身長のミスマッチを活かす。アトレティコは押し込まれると高い位置から守りたいがためにロングボールを使って守備の陣形を整える。逆サイドからの展開ではコケがトップ下の位置に入ってプレッシングを噛み合わせる。負傷交代が、結果的にはアトレティコに戦術の修正を与えることになったのは何の因果か。
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この相手の対応に合わせて形を変えるのが、バルセロナらしいところなのだが、そういうことはできなかった。
FWとMFの間のスペースを空けることになる。しかし、今日はシャビがいない。ということで誰も落ちてこないバルセロナ。ボールを前進させるのにかなりの時間がかかった。
アトレティコのボールを保持した際の選択肢は2つ。サイド攻撃からのカウンターか、ロングボール。ロングボールのメリットは守備をセットし直すことにある。ロングボールをそういった意図で使うのは、全くネガティブな意味ではない。4ー6ー0ゾーンから4ー3ー3のマンツーマン型プレッシングへの以降をロングボールを使うことでスムーズにこなしていた。これはバイエルンミュンヘンも使っていた。いわゆるドルトムントのゲーゲンプレスだ。この戦術で重要になっているのが、ラウールガルシアとコケ。相手の後方の枚数に合わせて上下動する。ラウールガルシアはサイドMFとFWとしての守備。コケはサイドMFとトップ下としてディフェンスする。

メッシの偽FWとしての役割と0トップの役割。それぞれを両方こなしつつ、バランスを取るのが難しいのか?と思った。この試合では連動したポジションチェンジがほとんど見られなかった。バルセロナのオフザボールの動きが見られなかったのは、各自が忠実にポジションを守ったからだ。数的優位を守るポジショニング。ゾーンの隙間でボールを受けるプレー。要は、フリーでボールを受けれる選手を作り出すこと。それによって起きるプレッシングの時間差を利用して崩すのが、バルセロナバルセロナらしい瞬間なのだ。クライフの“ボールを走らせろ。ボールは疲れない!”のバルセロナ原理である。しかし、グアルディオラバルセロナの強みは相手の守備に合わせて攻撃方法を変幻自在に変えることにあった。バルセロナの数的優位を作る動きに、持ち場を離れて何処までもついていく選手が増えた。そういった動きで生まれるのはスペースだ。そのスペースを利用する。バルセロナは連動したオフザボールの動きによって、マークを入れ換える術で対抗したわけだ。マルティーノのバルセロナは連動したオフザボールをベースに作られていた。しかし、それではスペースを管理するアトレティコに勝てなかった。そこで、従来のバルセロナらしさで勝負した。その結果、連動したオフザボールの動きが出てこなかった。グアルディオラの3ー4ー3はそのバランスを追及した結果ではないのか?時間とスペースのコントロール。グアルディオラ以降のバルセロナは如何にしてバランスを見失ったのか?