グアルディオラ以降のバルセロナを考える・メッシの0トップについて~2013/2014国王杯決勝~

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バルセロナはどうして機能しなくなったのか?前回発見したのは、マンマークによってサイド攻撃を機能させなくしたものであった。要は何処までもついていくことによって、フリーでボールを持たせない。フリーの選手を作らせない方法論だ。マッチアップを固定して、ゾーンで守るやり方であった。その結果、パリはバルセロナのサイド攻撃を封じ込めた。バルセロナはマテューの攻撃参加から数的優位を作ることで状況を打開しようとする。しかし、それはパリのカウンターの罠だったのだ。

マンマークでマッチアップを固定されたゾーンへの対抗策は、数的優位を作ることによるスクリーンプレーである。要は味方に時間を与えてあげるわけだ。f:id:real714:20141016080132p:plain

ブスケツとシャビでレアルマドリードの1,5列目に対して数的優位を作る。ブスケツが上がり、シャビが下がる。これだけだとシャビやブスケツモドリッチアロンソのプレスがかかる。そこでメッシがシャビのいたポジションに下りてきて、マドリーの2列目を攻略する。中央の数的優位を利用してボールを運ぶことができるのだ。連動したポジションチェンジでマッチアップを変更する。グアルディオラバルセロナの得意技である。
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4ー6ー0のゾーンディフェンス。始まりはチェルシーバイエルンミュンヘンと続き、アトレティコで完全態になった。バイエルンミュンヘンの場合少し状況が違う。それは次回にしよう。
とにかく、シメオネから方法論をパクったアンチェロッティ。その肝は、中盤での数的同数にある。中央に4枚集まるバルセロナに対して、前線の選手がかなり低めに守ることで数的同数を揃えた。ブスケツ、シャビに対して、ベンゼマ、ベイル。メッシ、セスクに対してシャビアロンソモドリッチだ。
これでは中央からボールを運べない。誰がボールを持ってもすぐにプレッシャーがかかるからだ。ゾーンディフェンスは人に依存しない。守るべきは、人ではなくてスペースだ。バルセロナの選手がどれだけ動いても、ポジションを変更しない。
バルセロナは中央からの強引な突破が最大の武器だ。しかし、中央が完全に封じられた今必要なのがサイド攻撃である。そして、マルティーノはしっかりとした手を打ってきた。
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これが本当の0トップである。CBが本来見るべき、マークを見失っている。メッシがここまでエリアから離れたら、セルヒオ・ラモスもついていけない。本来いない選手が急にエリアに現れるとそこで起きるのは数的優位な状況である。バルセロナの交代はセスクからペドロ。ペドロは、コエントランを惹き付けつつ。センターバックの移動に合わせて中央に侵入する。仕組みはレアルマドリードの0セントラルと全く一緒だ。ゾーンディフェンスはボールホルダーの位置によってポジションが決まる。弱点は、ボールホルダー以外の選手についていけないことにある。

では本題に入ろう。何故、これを最初からできなかったのか?やろうとしなかったのか?ここにバルセロナが勝てなくなってきた理由がある。ヒントは、決勝点になったベイルのカウンターとディマリアの先制ゴールである。印象的だったのは、バルセロナの攻撃のスイッチが入ると同時にレアルマドリードのカウンターのスイッチも入った点にある。パリもマテューの攻撃参加をさせることで、ルーカスモラウのカウンターをしていた。どうやらカウンターを喰らい続けた後遺症がまだ残っているようだ。
マルティーノのバルセロナは、連動したポジションチェンジをベースにしていたようだ。マッチアップの交換により、スペースを作り出す。メッシは偽FWであった。逆にメッシの0トップはあまりやらなかった。次回は、ビラノババルセロナでそれを考えていきたい。バイエルンミュンヘンもしくはモウリーニョレアルマドリードだ。

CLの挑戦・バルセロナvsパリ~数的同数を揃えること、サイド攻撃の誘導~

見事にバルセロナを撃破したパリ。それはパリの準備が良かったからだ。準備したのは、自分のマークを明確にすること。数的同数を揃えることでバルセロナにボールを進ませなかった。

パリのフォーメーションはカバーニを左サイド、パストーレを中央、ルーカスを右にした変則的4ー3ー3であった。パリも守備時にはルーカスが戻ることで4ー4ー2に変形する。これは、1つの定番になりつつある。昨年のレアルマドリードの形を意識したものだ。ローランブランはここに少しのアレンジを加えている。
バルセロナのサイド攻撃は、昨年のレアルマドリードのものとよく似ていた。要は数的優位から連動したオフザボールでスペースを作るものだ。仕掛けの肝は、サイドのMFが誰を見ればいいかわからなくなる点にある。本来のマテュイーディが見ればいい相手はダニエウアウヴェスだ。しかし、中央からサイドに移動したラキティッチの存在により、そこが曖昧になるわけだ。f:id:real714:20141015081509p:plain
パリの対策も他のチームと同じ。マークを固定化する。アレンジポイントは左サイドに設置されたカバーニだろうか。サイドに張ることで、ラキティッチが使いたいスペースを埋めてしまう。カウンターが怖い、ラキティッチはサイドに移動しない。マテュイーディが本来のマークであるアウヴェスを見れることによって、ゾーンを維持する。
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マークを固定することでゾーンを維持できる。モッタは中央のスペースを守ることを優先していた。ラキティッチはボールを持てるものの、アウヴェスにボールを渡してもマークがついているので攻撃は可能性の低いものになった。もっともそれでも、点が取れてしまうのだが。マスチェラーノカバーニをぶつけることで自ずと攻撃は左サイドからのものが多くなってくる。
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マテューの攻撃参加によって中央の数的優位を作る。マテューがフリーでボールを運ぶため、プレッシングがズレる。そこからボールを進める。ルーカスがプレッシングにくれば、ジョルディアルバにボールがわたる。そこでネイマールとジョルディアルバvsファン・デル・ヴィールとの2対1になる。中央はヴェラッティがプレスにいけば、イニエスタにパスが通る。中央でイニエスタ、メッシ、ネイマールが数的優位を作るので、バルセロナはチャンスを作れる。実際にゴールを奪う。
しかし、それはパリの罠であった。
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マテューが空けたスペースにルーカスモラウがカウンターで走り込む。スピードのある彼が右サイドに配置されたのはこのためだ。右サイドへの攻撃の誘導。カバーリングにはブスケツが。勿論、ブランはここまで読んでいた。ブスケツパストーレをぶつけた理由、カバーリングブスケツが行こうがパストーレがサイドに走り込むことでルーカスの突破を防がせない。逆サイドから切れ込むカバーニ。ついていくマスチェラーノ。更に裏に飛び出すマテュイーディ。パリの三点目は、論理的に組み立てられたものであった。


これらは昨シーズンのレアルマドリードの対策にとても良く似ている。マドリーではパストーレの役割をベンゼマが担っていた。ブランにとって計算外だったのは、カバーニがチャンスを物にできなかったところであろうか。もっともセットアッププレーでチャンスを物にできたのもそうだし、バルセロナの個人技から決められるのも計算外だったことを考慮すれば妥当なのかもしれない。
ラキティッチという新たなピースによってサイド攻撃が復活したバルサネイマールイニエスタ、ジョルディアルバの左サイドが非常に印象に残った。特にネイマールは、生き生きとしていて本調子までもう少しだろう。左サイドの1番手は彼等でいいだろう。問題は右サイド。バルセロナはどうすれば良かったのか。全盛期のバルセロナはどうだったのか。グアルディオラに聞いてみよう。
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ポイントはシャビが落ちてくることで、ブスケツのマークを剥がしていること。シャビがいたスペースにはメッシが落ちてくる。ペドロはメッシへのマークを防ぐために裏を狙う。アウヴェスはサイドバックを釘付けにしている。トッティの0トップとメッシの0トップが違うのはこの点にある。メッシは文字通り、FWでないのだ。ポジションを下げることで相手のマッチアップを変更する。ペドロが裏に抜けるのは、あくまでも副産物に過ぎない。この試合でも数的優位を作り、CBのマッチアップがいなくなる現象を起こしていた。最近のバルセロナはどういうわけかこうした動きが出来ない。中央を分厚く守るアトレティコを全く崩せなかったのは記憶に新しい。そこで今季は、サイド攻撃の復活に着手しているわけだ。まだ、ラキティッチとメッシの間に特別な関係が気づけていないように思える。それでもサイド攻撃が復活したバルセロナの復活は近い。そんなことを思った試合であった。

バルセロナvsパリ~数的同数を揃えること、サイド攻撃の誘導~

見事にバルセロナを撃破したパリ。それはパリの準備が良かったからだ。準備したのは、自分のマークを明確にすること。数的同数を揃えることでバルセロナにボールを進ませなかった。

パリのフォーメーションはカバーニを左サイド、パストーレを中央、ルーカスを右にした変則的4ー3ー3であった。パリも守備時にはルーカスが戻ることで4ー4ー2に変形する。これは、1つの定番になりつつある。昨年のレアルマドリードの形を意識したものだ。ローランブランはここに少しのアレンジを加えている。
バルセロナのサイド攻撃は、昨年のレアルマドリードのものとよく似ていた。要は数的優位から連動したオフザボールでスペースを作るものだ。仕掛けの肝は、サイドのMFが誰を見ればいいかわからなくなる点にある。本来のマテュイーディが見ればいい相手はダニエウアウヴェスだ。しかし、中央からサイドに移動したラキティッチの存在により、そこが曖昧になるわけだ。f:id:real714:20141015081509p:plain
パリの対策も他のチームと同じ。マークを固定化する。アレンジポイントは左サイドに設置されたカバーニだろうか。サイドに張ることで、ラキティッチが使いたいスペースを埋めてしまう。カウンターが怖い、ラキティッチはサイドに移動しない。マテュイーディが本来のマークであるアウヴェスを見れることによって、ゾーンを維持する。
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マークを固定することでゾーンを維持できる。モッタは中央のスペースを守ることを優先していた。ラキティッチはボールを持てるものの、アウヴェスにボールを渡してもマークがついているので攻撃は可能性の低いものになった。もっともそれでも、点が取れてしまうのだが。マスチェラーノカバーニをぶつけることで自ずと攻撃は左サイドからのものが多くなってくる。
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マテューの攻撃参加によって中央の数的優位を作る。マテューがフリーでボールを運ぶため、プレッシングがズレる。そこからボールを進める。ルーカスがプレッシングにくれば、ジョルディアルバにボールがわたる。そこでネイマールとジョルディアルバvsファン・デル・ヴィールとの2対1になる。中央はヴェラッティがプレスにいけば、イニエスタにパスが通る。中央でイニエスタ、メッシ、ネイマールが数的優位を作るので、バルセロナはチャンスを作れる。実際にゴールを奪う。
しかし、それはパリの罠であった。
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マテューが空けたスペースにルーカスモラウがカウンターで走り込む。スピードのある彼が右サイドに配置されたのはこのためだ。右サイドへの攻撃の誘導。カバーリングにはブスケツが。勿論、ブランはここまで読んでいた。ブスケツパストーレをぶつけた理由、カバーリングブスケツが行こうがパストーレがサイドに走り込むことでルーカスの突破を防がせない。逆サイドから切れ込むカバーニ。ついていくマスチェラーノ。更に裏に飛び出すマテュイーディ。パリの三点目は、論理的に組み立てられたものであった。


これらは昨シーズンのレアルマドリードの対策にとても良く似ている。マドリーではパストーレの役割をベンゼマが担っていた。ブランにとって計算外だったのは、カバーニがチャンスを物にできなかったところであろうか。もっともセットアッププレーでチャンスを物にできたのもそうだし、バルセロナの個人技から決められるのも計算外だったことを考慮すれば妥当なのかもしれない。
ラキティッチという新たなピースによってサイド攻撃が復活したバルサネイマールイニエスタ、ジョルディアルバの左サイドが非常に印象に残った。特にネイマールは、生き生きとしていて本調子までもう少しだろう。左サイドの1番手は彼等でいいだろう。問題は右サイド。バルセロナはどうすれば良かったのか。全盛期のバルセロナはどうだったのか。グアルディオラに聞いてみよう。
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ポイントはシャビが落ちてくることで、ブスケツのマークを剥がしていること。シャビがいたスペースにはメッシが落ちてくる。ペドロはメッシへのマークを防ぐために裏を狙う。アウヴェスはサイドバックを釘付けにしている。トッティの0トップとメッシの0トップが違うのはこの点にある。メッシは文字通り、FWでないのだ。ポジションを下げることで相手のマッチアップを変更する。ペドロが裏に抜けるのは、あくまでも副産物に過ぎない。この試合でも数的優位を作り、CBのマッチアップがいなくなる現象を起こしていた。最近のバルセロナはどういうわけかこうした動きが出来ない。中央を分厚く守るアトレティコを全く崩せなかったのは記憶に新しい。そこで今季は、サイド攻撃の復活に着手しているわけだ。まだ、ラキティッチとメッシの間に特別な関係が気づけていないように思える。それでもサイド攻撃が復活したバルセロナの復活は近い。そんなことを思った試合であった。

セリエの冒険・ユヴェントスvsローマ~セリエのクラシコ~

かつてのモウリーニョグアルディオラのやり合いを思い出す一戦。ドイツで言えば、バイエルンミュンヘンドルトムント。戦術的には非常に高度な試合となった。また、非常に残念なのは審判の判定により両チームのバランスが崩れ、熱くなりすぎてしまった。そんなところまでかつてのレアルマドリードバルセロナを彷彿とさせる試合になった。ここで書くのは判定についてではない。高度な戦術に関してだ。特にアッレグリが用意したローマ対策は完璧であった。

ユヴェントスのプレッシング

CLではアトレティコのプレッシングに苦しんだユーベであったが、今度はお返しとばかりにローマをプレッシングで苦しめる。
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これはローマがユヴェントスと同じ種類の攻撃パターンを使っていることと無関係ではないだろう。システムがガッチリ噛み合ってしまう。勿論、これをかわす手法もある。それが3CB式ビルドアップである。
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ケイタがDFラインに下りてくることで数的優位を作る。そこから両サイドに展開していくのが一般的なやり方である。しかし、これも読んでいたアッレグリマルキージオを前線にプレスさせる。2FW+1でローマの後方を沈黙させる。ポイントはマルキージオのポジショニングだろうか。絶妙なポジションを取り、中盤と前線の枚数の調節を行う。攻撃時にも効いていた。

リヒトシュタイナーの本当のミス
アッレグリの戦術は完璧であった。盤上の駒であったら失点はなかっただろう。しかし、人間はミスをする生き物なのだ。トッティの罠にかかり、PKを献上してしまったリヒトシュタイナー。彼のミスはそこではない。本当のミスは2失点目である。ホレバスへの一瞬のプレスが遅くなった。それは本当に僅かの時間であった。
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そんなスキをローマは逃さない。縦に抜けるジェルビーニョからスルーパス。最後はイトゥルベ。完璧な崩し。その正体はリヒトシュタイナーのミスであった。それがその前のPKの判定にナーバスになったからなのかはわからない。連動しないプレッシングは逆に相手にスペースを与えることになる。

■ローマのささやかな反撃
ローマの守備はどうだったのか?
相も変わらず、4ー4のブロックを作る。しかし、ユヴェントスの4枚のビルドアップ部隊に全くプレッシャーをかけられない。ジェルビーニョトッティが守備で全く貢献しない。そのため、ピルロが自由気ままにボールを持つ。そこからのパスワークに翻弄される。ユヴェントスの人を捕まえきれない。
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ユヴェントスの狙いはゾーンの隙間、相手の背後でボールを受けること。ゾーンはボールホルダーの位置によってポジショニングが決まってくる。そのため、隙間にポジションを取れば簡単にマークを外せる。ユーベはボールホルダーが既に自由になっているので、その位置にパスを出せる。前回述べたように相手がついてくれば、逆にスペースを作る動きで攻略する。トッティは途中で気づいた。このままでは不味いと。ピルロをケアするも、焼け石に水。両脇のCBからも攻撃を作れるユーベにはあまり意味はなかった。ローマは人がいるものの、守備は機能しないという状態に。
それでもローマは反撃する。
プレッシングによってできるスペースを利用して擬似カウンターで活路を見いだす。ただし、それは全てのプレーをダイレクトで行わなければならないわけでとても難しい。難しくてもやらなければ負けるローマ。逆に奪ってカウンターを仕掛けるユヴェントスジェルビーニョは孤軍奮闘。その圧倒的スピードでユヴェントスのDFをかき回す。両チーム共に決め手にかける中、最期に試合を決めたのはボヌッチのスーパーボレーであった。



ローマのゾーン攻略法とユヴェントスのビルドアップの仕方は似ている。ちなみに言うとミランも一緒である。ポイントはサイドバックサイドバックを高い位置に持っていって、空いたスペースにMFを落とす。ミランは逆。サイドバックが持ったら、FWが中央に、MFがサイドに抜けるようになっている。
システムの噛み合わせをずらす。フリーでボールを保持する。ゾーンディフェンスの前提条件である“ボールホルダーへのプレス”を無効化する。あとは、受けての連動したオフザボールの動きで崩す。ユヴェントスアトレティコと同じように、ビルドアップの噛み合わせを合わせた。ボールホルダーにしっかりとプレッシャーをかけることで、スペースを管理したのだった。
ユヴェントスの強さは相手に合わせて守備のやり方を変えていけることにある。ローマやミランをリスペクトした結果だろう。ユヴェントスがもう一段上に行くには、攻撃面での修正ができるかどうか。アトレティコのようなレベルのチームとやり合うには攻撃面の幅が必要になるだろう。

CLの挑戦・ユヴェントスvsアトレティコ~マッチアップと役割の固定化~

偶然にもこの2チームは何度かブログに登場している。(それは果たして偶然なのか…。)何度かレアルマドリードと対戦しているからだ。僕にとって都合がいいのは、両チーム共に馴染みがあり、勝手知ったるところだ。簡単に言ってしまえば、仕組みを知っているから書きやすいということだ。
前回は、ローマとシティの守備面に注目して攻撃方法について考えた。今回、注目すべきはディフェンスである。ブッフォンアトレティコのディフェンスを『一枚の岩のようだった。』と表現する。アトレティコのディフェンスが硬いのはわかる。誰もが知っている。でも何故硬いのかはなかなか説明できない。言語化が難しいからだ。そこで前回とは別のアプローチを取ることにしよう。つまり、ユヴェントスの攻撃面を考えることでアトレティコマドリードの守備面を考えるのだ。


ユヴェントスの攻撃パターンは、ローマと同じ手法を取る。連動したオフザボールの動きによってスペースを作る。ちなみに進化型は昨年のレアルマドリードだ。連動したオフザボールの天敵は、ゾーンディフェンスだ。このオフェンスの肝は相手がついてくる現象を利用して、スペースを作り出すわけだ。ゾーンは相手選手の位置に依存しないフォーメーションだ。いくら選手が動いてもゾーンディフェンスには関係ない。守備の位置は変わらない。アトレティコマドリードはゾーンディフェンスを極めたチームだ。相性は最悪とも言える。しかし、ユヴェントスはアレンジを加えている。ローマとは引き出しの数が違う。セリエA3連覇は伊達ではない。

ユヴェントスの3ー5ー2のわけ
その前にユヴェントスのボール保持の形を簡単に振り返っていこう。ユヴェントスピルロを中心に3バックがボールを出す役割になっている。今日はピルロがいない。それでも大部分の仕組みは変わらない。そして、その構造が攻撃でも活きている。ローマと同じ連動したオフザボールの動きである。
下準備として、後方での圧倒的数的優位を作る。これで先ずはボールを保持する。3枚のセンターバックマルキージオでボールを出していく。ウイングバック二人とセントラルを相手MFの間のスペースに配置する。ゾーンディフェンスの弱点は、MFの間のスペースである。何故なら、ボールホルダーの位置でディフェンスのポジショニングが決まってくるからだ。そのため簡単に相手の背後を取れる。
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ビダルリヒトシュタイナーがボールを受けたら、サイドの裏のスペースに抜ける。アンサルディの裏のスペースを狙う。
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ビダルにサウールがついてきた場合、テベスに直接楔を入れる。ビダルが作ったスペースを利用するわけだ。
またはFWが裏に抜けるパターンもある。FWの空けたスペースにはポグパが走る。この動きがローマと同じなのだ。レアルマドリードも連動した動きで相手を崩す。レアルマドリードの場合はFWが起点なのが違う。しかし、この試合ではアトレティコを崩すことができなかった。

アトレティコの4ー5ブロック
アトレティコの対策はレアルマドリードに用意したものと全く同じであった。捨てた部分は両サイドバックユヴェントスのチーム構造における失敗は、役割の固定である。それはレアルマドリードにも言えることであった。役割の固定化は対策を打たれやすい。そのため、アトレティコもマークを固定することで対抗してきた。
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アトレティコのプレッシングにユヴェントスはボール保持がなかなかできない。ユヴェントスのボール保持はシステムの噛み合わせのズレを利用したものだからだ、シメオネはシステムを変更することでミスマッチを防いだ。もう少し詳しく見ていこう。
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キエッリーニがボールを持った場合、ラウールガルシアがプレッシャーをかける。エヴラが持った場合は、ファンフランがプレッシャーをかける。プレッシャーをかけると同時に全体がスライドする。ユヴェントスにボールを前進させるスペースを空けさせない。
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中央を空けないスライドによってスペースがない。ポグパにはコケを、ビダルにはサウールをぶつける。チアゴは中央のスペースを埋める。アトレティコのディフェンスの固さはこのコンパクトさにある。

試合は結局1ー0。ユヴェントスは枠内シュート0という切ない結果に終わった。こうなった相手を崩すには、ロングサイドチェンジで大外を狙う他ない。シャビ・アロンソピルロのようなロングパスの名手がいればもう少し変わったかもしれない。だが、それでやっと五分五分だ。ちなみにアッレグリは途中でフォーメーションを4ー3ー3に変更。相手のマッチアップをずらそうとする。しかし、シメオネも交代策をきる。マンジュキッチに変えて、マリオスアレス。またも相手にディフェンスの形を変えられる。結局は、試合途中でマッチアップや役割の交換ができないと、交代策の切り合いのなってしまう。試合の途中で相手の守備の形に合わせて、攻撃のポジショニングを変更出来なければならない。逆にアトレティコはしっかり相手の対抗策に合わせた守備を行えていた。試合前の準備、相手のことをよく知ることが大切なのだ。

CLの挑戦・ローマvsシティ~プレミアとセリエの守備の違い~

サッカーの攻撃パターンは大雑把に言ってしまえば二種類である。時間を使うのか?スペースを使うのか?このどちらかになる。大切なのは、相手の守備の形に合わせて形を変えることである。どちらかが優れているわけでも劣っているわけでもないのだ。


■ゾーンディフェンスで守るローマ
ローマの守備の形は以前紹介したように、レアルマドリード型となっている。4ー3ー3と4ー4ー2の併用である。ジェルビーニョトッティを前線に残すことでカウンターの威力を維持している。ちなみに相手がシティということもあり、ジェルビーニョが下がり、4ー5のブロックを作っていた。ブロックというのは、ゾーンが効いているスペースだ。ゾーンディフェンスはスペースを守るやり方である。ボールホルダーへのプレッシングとラインディフェンスを組み合わせることで、攻撃するスペースを狭くする。ゾーンディフェンスはボールホルダーへのプレッシングが前提条件で必要最低条件だ。シティの狙いは前提条件を崩すことにあった。
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■シティのプレッシング、人への当たり
それに比べると、シティのディフェンスは人への意識が高い。同じ4ー4ー2でもえらい違いがある。持ち場を離れてでもプレッシャーをかける。僕の知識不足で申し訳ないが…おそらくマンツーマンと同じような発想でマークが決まっている。自分のいるエリアではなく、人をマークする。シティのような自由に動く選手にもついていく。相手選手に時間を与えない。スペースを管理するゾーンと比べると時間を管理するディフェンスである。
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ローマの攻撃パターン、オフザボールの動きは、シティとは全く逆のものだ。シティが時間をかけて数的優位を作るのに対して、ローマは時間をかけない。スペースに飛び出す選手とそれに連動した動きで、相手の守備を攻略する。シティのディフェンスは人へのマークが厳しい分、スペースを空けがちであった。トッティとナインゴランの連携はこうした連動したオフザボールの動きによって生まれる。基準は、人がスペースに動くこと。それに対応して、他の選手が動く。連動したオフザボールの動きは、スペースを生み出す。

ローマは動いてスペースを作る。それに対して、シティは動いてフリーの選手を作る。違いは、ボールを受ける時の選手の状態。シティはポジショニングを守る。そのエリアで止まってボールを受ける。ローマは動いてボールを受ける。1人が動き出すと全員が連動する。

トッティと言えば0トップだが、メッシの0トップとは種類が違うように思えた。トッティの0トップはあくまでもポストプレー、味方にスペースを作るための行動であること。そのために相手を背負ってのプレーが非常に多い。ベンゼマのような動きに近い。でもメッシは違う。前を向いてボールを受ける。そして、FWの位置に文字通りいないのだ。相手の守備のマッチアップを狂わせるためのポジショニングを取る。ここらへんは、バルセロナの試合を見た時にしようか。

シティの交代策はミルナーランパード。シルバが空けたスペースに飛び出す選手の登場だ。アシュリーコールがどこまでもシルバについていくための打開策。ローマは厄介なシルバを何処までもついていくことで対応。その分スペースを空けることになる。運動量が多く、スペースをつくのが上手い二人の登場で傾きかけた流れを強引に引き戻すのであった。

異なるリーグの対戦相手ということもあり、ディフェンスもオフェンスも違う両チーム。そのため、お互いに持ち味を存分に出せた試合となった。そうなると結果を分けるのは個人の能力差、完成度。そういった面でもローマはシティに引けを取らない。ただ、両チーム共、素直過ぎるのかなと感じた。そういう面ではもう少し進化が求められるだろう。次は、アトレティコユヴェントスをやろうと思う。上に言った完成度、柔軟性という意味ではこの2チームは上にある。チームのポテンシャル、強さとは何に注目すべきなのだろうか?

面白かったのはリーグごとに、ディフェンスやオフェンスの仕組みが違うという点である。CLは各リーグのトップチームがぶつかるゲームだ。そのため、出場チームはそのリーグで有効な戦術を使っているのだ。これは仮説だ。次回はその点に注目してみよう。

ドルトムントvsアーセナル~アーセナルは何故ボール保持できなかったのか~

ボールを持てないアーセナル。走るドルトムント、そのようなイメージになったこの試合。何故、アーセナルはボールを持てなかったのだろうか?

ドルトムントは4ー4ー2の形で相手陣形からプレッシングを仕掛ける。狙いはコシェルニーとメルデザッカー。この二人にスピードがあるオーバメヤンとインモービレをぶつける。アーセナルセンターバック二人はスピードのあるプレッシングに手を焼く。彼らのパス精度は悪くないが、ボールを持って運ぶ力は足りない。アルテタ、ラムジーウィルシャーの中盤が助けようにも、ケールとベンダーまでプレスをかけてくるのでプレッシングをかわせない。

プレッシングをかわすパスワークに必要なのは、連動性である。アーセナルの中盤のビルドアップには連動性が全然足りなかった。そのため、ボールを受けに下りてきた選手が作ったスペースを有効活用できない。そういうことでドルトムントショートカウンターを受ける展開に。アーセナルにとってさらにたちの悪いのがドルトムントのゲーゲンプレスであった。


ここではドルトムントのゲーゲンプレスがどんなものかは長くなるので省略させて頂く。簡単に言うと、ボールを奪われたら直ぐに奪い返す。かつてのバルセロナルールである。これにより、ドルトムントのプレッシングにはまり続ける。アーセナルのディフェンスは4ー1ー4ー1のゾーン。そのため、ドルトムントの後方は前線に好き放題ボールを送り込む。


これは不味いと。このままでは良くないと感じたアーセナル。思い出したかのようにプレッシングをスタート。中心はウェルベックとアレクシス、ドルトムントはヴァイデンフェラーで逃げるものの、ボールを奪い返すことに成功する。

この展開を読んでいたのがドルトムント。前がかりになったアーセナルに強烈なカウンター。なんでもないクリアボールにインモービレ。アルテタは置いてかれ、グロスクロイツオーバメヤンの三人での数的不利に。そのまま、インモービレのシュートが決まってしまう。


僕が見たのは前半だけだが、ドルトムントの戦術が上手くハマった形になった。アーセナルの致命的だったのは、後方のビルドアップ能力。コシェルニーとメルデザッカーが味方に自由を与えることが出来なかった。ただし、GKを使ったロングボールで逃げるという手がある。しかし、空中戦が持ち味のジルーとサニャはいない。ということで意地でも地上戦にこだわらなければならない。自由な動き、パスワークが持ち味の中盤は沈黙。エジルは消えたままであった。
ドルトムントは大体が何でもできる。相手に合わせた戦いかた。それは一つ一つはレベルが極限まで高いものではないものだ。それでも相手に合わせて、柔軟に戦略を変更できるのが強みだ。レヴァントフスキーの代わりのインモービレや香川の代わりに出てきたオーバメヤンムヒタリアン等、攻撃陣も多彩である。
この辺りの戦術における柔軟性はアトレティコに似ている。アトレティコもそうだが、ドルトムントも何でもできるチームに変わりつつある。低い位置でのゾーンディフェンスと高い位置からのプレッシング。ボール保持からのゾーン崩しと連動したオフザボールからのカウンター。相手の打つ手に合わせて変化していく。勿論、それぞれの精度は本家には勝てないが、打つ手を変えることで勝っていく。トーナメントでは絶対に当たりたくない存在だ。