W杯の探求・ドイツvsフランス~ドイツが得たもの、捨てたもの~

僕は、2008年のユーロからドイツ代表を応援していた。そのアグレッシブなディフェンスからスピードある攻撃が好きだったからだ。その組織力、完成度の高さはとても魅力的だった。そして、2010年のW杯でもそれは変わらなかった。そこでは、多くの若手選手が登場した。ミュラーケディラエジルの活躍は目覚ましく、ベスト4まで進出した。 両方の年で立ち塞がったのは、スペインであった。近年の代表チームの優勝争いはこの2チームの戦いに集約されていると言っても過言ではないだろう。2012年のユーロで道を阻んできたのは、スペインではなかった。同じくボールポゼッションするイタリアであった。僕達の関心の多くは、ドイツがどうすれば優勝できるか?ということだろう。そして、今回は強敵であるスペインはもういない。つまり、今度こそなのだ!
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しかし、僕はドイツ代表からすっかり興味をなくしてしまった。かつてのドイツらしさはすっかり消え失せ、ボールをしっかりとポゼッションするチームへと変貌したのであった。代表チームのクラブチーム化である。グアルディオラバイエルンに植え付けたメンタリティーがそのまま代表に反映されていたのだ。僕が好きなドイツ代表はもうそこにはなかった。過去のものとなったのだ。
誤解を生むといけないので、最初に断っておく。僕は何もポゼッションサッカーを否定しているわけではない。グアルディオラバイエルンミュンヘンバルセロナも好きなのだ。その完成度の高さは称賛に値するだろう。ただし、ドイツ代表は違う。何となくチグハグなのだ。かつてのドイツ代表の良さは、前線からの連動したプレッシングと縦への速さであった。それを捨て去ることで、ゲームをコントロールできるようになる。得点力は減少したが、失点も減少した。ドイツ代表は、より安定感のあるチームに生まれ変わったのだ。そして、僕はそこに、違和感を感じているのだ。それが何なのかはわからない。今回はドイツの変化について見ていきたい。


■フランスのディフェンスに対するドイツのリアクション
フランスはベンゼマを残した4ー1ー4ー1気味で試合をスタートする。前回の反省を込めて、左サイドにはグリーズマンを起用する。サイドの守備を修正してきた格好である。
対して、ドイツは右サイドバックにラームを起用。フランスの弱点である左サイドから攻めようという意図が見える。代わりにアンカーに使われたのはシュヴァインシュタイガー。ここまでは、フランスの読み勝ちな印象を受ける。しかし、ここで終わるドイツではない。動き始めるのは、シュヴァインシュタイガーとクロースである。
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シュヴァインシュタイガーとクロースがディフェンスライン近くまで下りてくる。ただし、フランスはそこまで知っていた。ポグバとマテュィディを押し上げることでドイツの中盤の選手にボールを触らせない。だったらそれを利用するドイツであった。
フランスは前線がベンゼマ1人なのでどうしてもセンターバックのボジションは空いてしまう。そこでセンターバックを利用した攻撃で攻めるドイツである。
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ベンゼマは、地味に守備での貢献度の高いFWである。シュヴァインシュタイガーへのパスコースを常にケアしていた。だったら逆に引き付けて、フンメルスをフリーに、すればいい。フリーになったフンメルスバイタルエリアにパス。エジルミュラーが危険な位置でボールを受ける。
またも解せないのはフランスであった。中盤ラインは連動して高い位置を取るのに、それに全く連動する気配がない。相手に裏を取られるのを恐れたのか?
ドイツの攻撃も単発で終わってしまう。高い位置からの連動した守備を行うには、全体がコンパクトにならなければならない。でも、上記のように全体が間延びしてしまっている。また、無理に追わずに低い位置から守備ブロックを作るドイツであった。

■ドイツの守備に対するフランスのリアクション
そんな状況なので、当然フランスがボールを持つシーンも出てくる。
フランスに比べるとDFラインは高めに設定しているドイツ。フランスのオフェンスの狙いはその裏のスペース狙いである。そして、元々フランスの攻撃はそういった設計になっている。
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フランスの攻撃の攻撃の大きな特徴は、全員が狙いを共有しているところにある。裏を狙う選手に対して、周囲が連動することでフリーの選手を作るのだ。
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グリーズマンとヴァルブエナの役割は、ただのサイドアタッカーではない。中央に進出してアクセントを作れる。そのスペースを作るために、周りの選手が動いてポジションを変えていくのだ。ここでのキーマンはベンゼマである。周りに合わして動くことができるベンゼマは味方のボジションに合わせて、自分の位置を変えていく。


こうして、ドイツvsフランスは肉でも魚でもない試合となっていく。ドイツが優勢かと言われればそうでもなく、フランスが優勢かと言えば違う。かといってハイレベルなやり合い、打ち合いでもないのだ。

そんな中、ドイツがセットプレーで先制する。そして、試合で唯一の得点がこのフンメルスのゴールというのもこの試合内容を暗示しているかのようだった。

「“ドイツがこうした試合展開を望んでいた。狙い通りだったのだ!”と言うのはいささか乱暴な推論でしょう。なぜなら、フランスのほうが決定機が多かったように思えたからです。レーブは、フランスのカウンターを警戒していたようです。確かにフランスのカウンターを受けるシーンは全くなかったので、狙いは成功したのでしょう。でも結果的には数多くの決定機を許しています。“いやいや、ドイツはカウンター狙いだったんだよ!”というのも何とも微妙です。何故なら、ドイツがカウンターでチャンスを作るのは、フランスが選手交代をして、かなり前がかりになってからだからです。僕が言いたいのは、『ここにドイツ代表の欠陥があるのではないか?』ということなのです。」

■ドイツの変化はポジティブかネガティブか?

ブラジルがコロンビアにボールを保持することでディフェンスを機能させたように、ドイツもボールを保持するということで失点を減らしている。かつてのドイツがスペイン相手に勝てなかったのもそうだった。ここ数年のドイツの躍進は、ボールを奪うことで攻撃力を上げてきたことに要因がある。だが、スペインやイタリアのようにボールを保持することに長けたチーム相手に脆さを露呈した。グアルディオラの影響もあり、ドイツはポゼッションのチームへと変貌した。それによって、守備の幅は大きく広がった。何より、ゲームをコントロールできるようになったのだ。
ただし、失ったものもある。カウンターのスピードである。かつてのドイツの勢いある攻撃は、ほとんど見られなくなった。ボールを持っていない選手たちのフリーラン、ゴール前に押し寄せる勢いはなくなった。その先頭を走っていたのがエジルであった。カウンターとラストパサーにおいて中心だったエジルは、今やサイドで慣れない守備に奔走している。彼のファンタジーはもう見れないのか。

ドイツはカウンターの破壊力が落ちている。



ドイツ代表は強くなった。戦術的幅を得たことで、守備力を上げた。より隙のないチームになったと言えるだろう。弱点という弱点はなくなった。強いていうなら、圧倒的力も無くしたところだろうか。