W杯の探求・ドイツvsブラジル~王国の誇りと冷酷無比な虐殺~

「人生で最悪の試合をしてしまった。この敗戦は、僕らの生涯にずっとついてまわるだろう」

これはフレッジが試合後に語った言葉である。この言葉が僕の頭から離れない。ブラジルの予想外の大差での敗退。わずか6分間での4失点に僕らは答えを求めている。残念ながら、今の僕には全てを説明出来ない。それは単に僕の力不足なのだ。僕は根本的に間違えていたのだ。それでも僕の力で今できる限りを説明したいと思う。
そして、約束しよう。いつの日か、この日起こった全てを説明することを。
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僕は試合前のブラジルの選手達を見ている。自信に満ちた表情。適度な緊張感。彼らはまだ知らない。この後に悲劇が待っていることを。

自信と警戒心を持ったブラジルは、立ち上がりからドイツのボールを奪いにいく。ドイツにパスを回されるのが危険だと判断したのだろう。そのドイツ相手になかなかボールを奪えない。メキシコ戦でも見たようにブラジルの攻撃のスイッチは、ボールを奪った瞬間に入る。そのため、なかなか攻撃のスイッチを入れられないブラジルであった。ドイツは自陣では、ゾーンディフェンスでブラジルの攻撃を待ち構える。サイドは比較的ボールを持つことを許されたので、サイドにボールを展開してそこからなんとかしようとするのであった。フッキの強引な突破、ベルナルジの閃きにかける。しかし、そこからのプレッシングが上手くハマらなかった。ブラジルは二段構えの攻撃ができない。ブラジルの武器の1つである。強引な突破、奪われてからのショートカウンターが使えない。攻撃は単発に終わる。ドイツのディフェンスはそれでは崩せない。



■ドイツのゲーゲンプレッシング封じ
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ブラジルはロングボールから活路を見いだそうとする。元ネタはドルトムントのゲーゲンプレス。強引なロングボールからセカンドボールにプレッシング→ショートカウンターである。これは、予め、ボールを蹴るポイントがわかっているので、予測がついて相手より早くプレスにいけるのがポイントであった。つまりは、こちらで勝手に攻守の切り替えポイントを定めてしまうわけだ。その条件は、後方でのボール保持であった。ブラジルはルイスグスタボをDFラインに落とすことで相手のプレッシングをかわす仕組みがある。所謂、3バックポゼッションだ。しかし、ドイツはケディラをルイスグスタボに当ててきた。後方での数的優位を活かせない、ロングボールは正確性を欠き、ブラジルのプレスがはまらない。
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そうなれば流れはドイツに傾く。試合後ミュラーはこう語る。『ブラジルはスペースを与えてくれたから、僕たちは比較的楽に試合を進めることができた。』と。ブラジルがプレスに行けば行くほど、ドイツの攻撃が加速していく。11分の失点はブラジルのマンマークでの受け渡しミスから起こった。まだまだと鼓舞するダビドルイス。しかし、この失点はほんの序章に過ぎないことを知るのは、ずっと後のことだ。

ラームからのパスをフェルナンジーニョがボールを奪えず、クロースにボールを与えてしまう。結論から言おう。これが全てだった。ルイスグスタボはサイドに釣り出されていた。ミュラーがサイドから斜めにカットイン。クロースのスルーパスをそのまま、後方のクローゼに落とす。一度はとめられたクローゼだったが2回目にしっかりと決める。完全にデザインされたプレーであった。
それでもブラジルは折れない。しかし、ドイツはあくまで冷静である。フェルナンジーニョとルイスグスタボをしっかり引き出しておいてから、マイナスのクロス。エジルは惜しくも打てなかったが、折り返しにクロース。左足のアウト気味のダイレクトシュートを突き刺す。
ブラジルはここで一種の混乱状態に陥る。キックオフからのバックパスにケディラが猛然とアプローチ簡単にボールを、クロースに与えてしまう。クロースとケディラ二人に崩される。

そこからは少し持ち直すものの、エジルケディラにゴール前で回される屈辱的な失点。ドイツ代表は最後まで冷静であった。そんな冷酷な攻撃にブラジルは感情面のコントロールを失ってしまったかのようだった。


■マルセロとオスカルの抵抗
そんな混乱の最中でも立ち向かう勇気を持った選手たちがいる。マルセロとオスカルである。ドイツ代表の容赦ないプレッシングから味方を助けるため、動き出す。
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ブラジルの問題点はプレッシングでドイツに捕まってしまうことであった。マルセロとオスカルのポジションチェンジにより、攻撃の時間を作ることに成功する。ブラジルの守備の問題は未解決のままだが、攻撃はとっかかりをつかめそうである。

これにより、致命傷を負いながらも、ハーフタイムを迎えるブラジルイレブン。彼らの胸にはどんな思いがよぎったのか。おそらく言葉にできないものであっただろう。失望、怒り、落胆、そして誇り。そしてその誇りこそが彼らを後半に向かわせるのであった。



■ラミレスとパウリーニョの影響
後半ブラジルが二枚の交代カードを切る。フッキとフェルナンジーニョに替えて、ラミレスとパウリーニョ。これは、攻撃面の修正を施すためであった。
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ベルナルジ、マイコンをサイドに張り付かせる。ラミレスとマルセロをインサイドに。パウリーニョをドイツMFの間に配置。これは、前半崩せなかったドイツの中央を崩すためである。
ベルナルジとマイコンでサイドの横幅を作る。パウリーニョでドイツの中盤ラインを牽制。ラミレスは幅広く動くことで、ボランチ周りのカバーリングを果たす。ボールを運ぶのは右のダビドルイスと左のマルセロ、時々オスカル。オフェンス面が改善されたことによって、ブラジルが押し込み、そこからのプレッシングが機能するようになる。

もっとも、ドイツが多少ペースを落としたのも無関係ではないだろう。ブラジルの後方は、かなり空いていたし、そこから無理矢理ボールを保持するよりもカウンターで心を折ってしまったほうが早そうである。

オスカル、パウリーニョ、ラミレスが決定機を迎えるもノイアーがファインセーブを連発。ベルナルジはこの舞台に立つのは早すぎた。それでもブラジルが前半とは違うことを見せつけるには充分だった。しかし、ドイツはしっかり蓋をする。可能性の芽を摘む。マルセロが鬱陶しいドイツは、クローゼに変えてシュールレ。マルセロの裏を突くことでブラジルのオフェンスを止めにかかる。ブラジルはその後も失点を重ねる。最期にマルセロのアシストからオスカルが意地の一発。ブラジルの得点が前半からもがいていた二人に生まれたのは半ば必然的であろう。




ここで終わりだ。現地点での僕にわかるのはここまでだ。このW杯で自分の力不足を実感しつつある。僕は自分の実力不足を恨む。なんでここまでしかわからないんだ。僕がわかったのは“ブラジルのプレスがハマらなかった理由”だけである。ブラジルは攻撃面で上手くいかなかったから、プレッシングが上手くいかなかった。後半は、より幅広く動ける、ラミレスとパウリーニョの登場で多少改善できた。だが、それだけである。何故、ブラジルのディフェンスはあんなにスペースを空けることになってしまったのか?ドイツのパスワークにズタズタに切り裂かれたのか?その構造的問題はわからなかった。説明できなかった。ドイツのパスワークが優れていたのは事実だろう。ただそれだと一年前のコンフェデで、スペインがブラジルに完敗した理由にならない。
グアルディオラがドイツ代表に与えた本当の影響はなんなのか?それは何を意味するのか。

僕の手元には僅かばかりのヒントがある。これが解けるにはもう少し時間がかかるだろう。僕が書けたのはほんの少しのことだけだった。試合の半分もわからなかった。マルセロが言うように、何が起こったのか全くわからなかったのだ。ブラジルイレブンは今回のことを忘れないだろう。そして、反省し、考えるだろう。僕も全く同じだ。かなり拙い内容になってしまったが、これが今後に繋がれば…と思う。そして、ここまで読んでくれた方には感謝の気持ちを伝えよう。ありがとう。
まだ終わりではない。W杯も続く。何もわからなかったことがわかった。これは始まりなんだ。